温故知新 自動化アーカイブス第3回

自動化推進アーカイブス、2番目に紹介する記事は高久龍雄氏による「自動組立機の標準化思考」とします。このころの記事には会話形式のものがよく見られ、氏の記事も会話形式を用いている。読者が知りたいと思われる疑問を会話の中にうまく含めて説明してくれるのでとてもわかりやすい。それではお楽しみください。

記事目:自動組立機の標準化思考(その1)
執筆者:高久龍雄(キヤノンKK)
掲載号:自動組立ニュース1977.3〜1977.8(全6回)

はじめに

標準化はさてやろうと思ってもすぐとっかかれるものではない。やはり仕事をしている最中に考えながら作っていくものである。その方が時間的にも費用的にも得になり、その他の点でも有利な事が多い。

そのことから考えると自動組立機の標準化は、今一番設計に油が乗っている若い技術者や実際に自動組立機を作っている作業者、またその組立機を使っている現場の監督者やメンテナンス係の人が仕事を通じて話合って決めて行くのが最も良いと考える。

その作って行く過程で、決めかねる時がある。例えば治具やパレットの大きさをどのくらいにしておけば、将来出てくる製品にも使えるのか、ピックアンドプレースユニットの動作範囲やスピードは、加工ユニットの種類、ベースマシンの大きさや種類はどこまで限定するか等、考え出せばきりのないほどたくさんの事を決めて行かなければならない。そして、その決めた標準類をどうしたら守られるのか、使われるのか、その後の技術動向によって使われなくなるユニットの処置と改善は、特に前に作ったユニットとの互換性は、一番気になる所である。

さてこの様に標準を決めるという仕事は非常に広範な能力と決断が必要で、とても現業の者では出来ない、やはり専門家を一人置いていつも考えてもらう方法が一番良いと思えてくるにちがいない。しかし、これは専門家になる担当者にとってはもっと大変になってしまう。それは決める人すなわち標準化の専門家に対して、実際にそれを使う設計者が別の意見を持っているとしたら使うわけがない。標準作りは技術以外の人間関係で苦しみを味わうはずだ。少しでも設計が楽になればと思って標準を作っても、彼らが守ろうとしないのなら標準化の専門家は最後にサジを投げてしまう。

やはり、少々大変だがそれは技術的な問題だけで済む守る人自身が決めて行く事が一番良い。その時の決断で一番の決め手は、なんといっても損得の計算ではなかろうか。標準化を行う事により従来、能率が60%程度であったものが85%〜90%にアップするという事実を前提にして、努力して行くべきである。

これから約6ヶ月に亙って次ぎの様なテーマで進めて行き、自動組立機の標準化がいかに必要であるかの理解とどうしたら上手に標準化が出来るのかを参考例として読んでいただけたらと思う。

1.組立職場と自動組立の現状
2.自動組立機標準化へのアプローチ
3.標準化に向くコンポーネント
4.標準化として採用できるユニット 1
5.標準化として採用できるユニット 2
6.標準品を利用した自動組立機

<1>組立職場と自動組立の現状

「この間の雑誌社の調査、見ましたか例の自動組立機これからの展望というやつ、本当に年間1千億円の設備産業として育って行くのでしょうかね。」

「そりゃなるでしょう。今すぐというわけじゃないにしろどの企業だって若手労働者不足と賃上げはもう限度に来てるし、そうでなくともあんまり人が多いと組合対策とか厚生設備とか、これから先の中高年齢層対策とかあらゆる問題が会社にかぶさってくるだろうから」

「そういわれれば、先日工場見学に行ったテレビ工場は当初1200人〜1300人いた従業員を合理化や設計変更ほらVAという手法で700人程度にしてみたらほとんど男子ばかり残ったといってましたが、男子は先行き会社をやめるわけでなし、あのまま定年までいるとしたらどうやってその人件費アップ分を吸収して行くつもりなのか他人ごとながらゾッとしましたよ」

「だから組立だって女子が採用出来にくくなったからといって、安易に男子ばかり採用していると先々大変になるんですよ。そんな所から自動組立機を大幅に導入して行かなければならないんだと思いますよ。それから今まで機械職場には大変大きな投資をして来たと思いますが組立職場は、せいぜいベルトコンベヤを引いたくらいで主だった投資はしてませんでしょ、ですからもし組立の自動化が本当に導入出来やすくなったら各企業がこぞってやると思います。そんな事になったら年間1千億どころか数千億になるんじゃないかな」

「なるほど、組立は設備関係者から云わせればまさにねむれる宝ですね、しかし今お話があったように導入しやすくなったらとは一体どこに問題があって遅れているんですかね」

「一口でいえば、人間のやる事を機械にやらせようとするとずい分高いものになってしまうという所ですか」

「だけど機械関係の職場にはずい分自動機が入っているし、さほど高価とも思われませんがね」

「そうなんです。これはやはり歴史というか、技術の投資歴と金額の違いでしょう。今まで数十年いや二百年以上も前から機械には多くの技術者とその研究費が投入されて来ましたし、メーカーも合理化や標準化が進んで来たので一般的には機械設備の自動化は安くなっているんだと思いますよ」

「なるほど、しかしこの機械自動化の技術があるんだったら、組立の自動化だってさほど変わらないんじゃないんですか、同じ様な材料や加工機械で作るんだから」

「そういわれると元も子もないんですが、機械加工と組立加工の基本的な違いは、機械加工は1つの素材を色々な加工機械で責めるわけですが、組立加工は多くの素材というか部品を一人の人が取り扱うので、機械に比べて変動要素が多いんですよ。まあこれも製品設計が組立の自動化に正面から取り組んでくれれば話しは別ですがね。そして我々生産側から組立自動化あらゆる情報を製品設計側に整理した形で渡してゆけばなおよいのですが」

「その変動要素という言葉にちょっとひっかかりますが、もっとくわしく話して下さいませんか」

「ええ、この変動要素とは設計の段階でなかなかわかりにくい事、すなわち数値的にとらえにくい事象の事なんです。例えば部品のバラツキとか、不良の形状や寸法また部品の中に混じっている他の部品や切粉、なかには部品を包装して来たビニール袋の切れ端、それを止めてあったホッチキスの針等、色々あります。これが機械加工ですと1つの部品なり、材料を1度クランプしたら最後まで変わらないんですが、組立の場合ですと先ほど話した色々の要素を持つ部品同士をまた組合せるんですから、2乗や3乗どころのさわぎでない変動要素を持つ事になるんです」

「なるほど、そうすると組立の自動化を成功させる一つの手段として、その変動要素を少なくする工夫をすれば、良いわけですね。例えば部品精度を一次元上げてバラツキの範囲を少なくするとか、部品の取扱いを充分に注意するとか、組合せに関して設計段階でその変動要素に影響されない様な製品設計をしてゆくとかすればなんとか行くわけですね。その変動要素は組立技術とはあまり関係ない、いわば他人の悪口ばかりいっている様な気がするんですが、自動組立技術者としてはもっと他に、変動要素的なものはないんですか」

「いや、いわれましたな。あるんです。それは製品設計や、部品加工が非常に良くなったとしても、自動組立機自身にまだまだ未完成な部分があってそれが変動要素になっているんです」

「ははー、それが稼働率でなく可動率といわれる話しなんですね。最近良くこの二つについて耳にするんですが、どうもごちゃごちゃになってしまって・・・・・・」

「そう稼働率は読んで字のごとしで、自動組立機が完全であっても先ほどの部品がバラついていたり、また動かそうにも部品切れで動かせなかったりする事をいうのですが、そうそう当然稼動しているという事は良品が出ている事という事も含みます。一方、可動率は全て自動組立機を提供した側でのいわば失敗による機械の故障率の逆と解釈して良いでしょう」

「そうなると自動組立機のエンジニアはまず自分達で出来る機械の可動率向上をめざす事にありますね」

「そうなんです。それがまず第一の仕事、それから製品設計者に対して自動組立を考慮した製品設計をしてもらう為にデータを出す事。それから各部品を作る専門家に自動組立機で要求する部品精度と管理をお願いする事だと思います」

「よくわかりました。その第一の使命を完成させてゆくにはまずなにが大切なのでしょうか」 「くわしくは次回でよく説明しますが、まず設計者が図面を書く前に、その構想段階で絶対の自信がある部分とやってみなければわからない部分にはっきりと色別をして、わからない部分のどこがわからないのかを書いてみる所から始まるといって良いでしょう」

「それが良く話して下さる、標準部すなわち自身のある所と特注部すなわちやってみなければわからない所とゆうわけですね、それでは次回この事についてもっと話をして下さい」

<2>自動組立機標準化へのアプローチ

*標準部と特注部

「先月は、標準部と特注部についてもう少し話せという事でしたが、標準部は一般的によくJIS等で決まっているものとか、各社の社内標準で決まっているものという理解でよいと思います。そしてもう一歩進めて考えると、市販されているユニットやコンポーネント、パーツ類の寿命が長そうで、しかも自社で作る事を考えたなら買入れた方がよほど安く、いつでも手に入れる事が出来ると言う条件の物もその仲間に入れてよいのではないでしょうか」

「なるほど、そこまで考えると標準部は割合に多いですね。特に大物のインデックステーブルなんかも、メーカ品を買っているのでこれも標準部といえますね」
「そうですよ。メーカで保証しているものであれば安心して設計の中に組み込めるし、また使っていても実績があるだけにメンテナンスの費用も掛かりません」

「そうなんですよ、私達はなんでも自分で設計しないと設計者として恥だと思っているんです。しかしこれはあくまでも個人の気持の問題で会社全体の利益とあまり関係ないんですよ。でもその設計者の気持が標準化を一番さまだげていると思います。自分のわがままが結局は自分達メカ設計者全員の不幸にまわりまわってくるんですね。これは大反省しなければいけないぞ」

「しかし、反面そうとばかりは言えないんです。その様に設計者の方が、他人のもの全て使っては恥だという気持こそ、今日の発展に導いたのではないでしょうか。少しでも良い物を、全く違った考えでやってみては等と、色々やってみて進歩があるのだと思います。ですから問題は標準品をどこまでにするかという所ではないでしょうか」

「そうなんです。今私がお聞きしようと思っていたのはそこの所なんですよ。他人のやったものはどしどし使えという話しと、少しは自分のアイデアを取り入れて設計しろという話しでは私達はまよってしまいますよ」

「これは失礼しました。確かにその通りで、標準化のむずかしさもそこの所にあります。標準部をどこまでにして、特注部をどこまでにするのか、これはむしろ設計者が考える事でなく、設計者にその仕事をさせた人、例えば経営者とか、お客様とかが決める事なのです」

「しかし、お客様といってもそんな細かな所まで指定出来ないでしょう。仕様書がきちっと書けるくらいなら自分で設計してしまった方が早いんじゃないかな」 「確かに良い仕様書を書くには、そのくらいの実力がないければだめです。しかし仕様書の基本はその様な所にあるのではなく、これこれの製品を作るためというユーザのニーズが一番大切なのです。たのんだ専用機で作られる製品のあるべき姿や価格はどこまでが限度であるとかいつまでにどのくらいの量が必要なのか、という事を書き上げていればそれで充分なのです」

「という事は、専用機自体はどうでもよく、それによって作られる製品の品質、価格、納期(量)なんかがはっきりしていればOKなんですね」

「まあそうです。専用機自体はどうでもよいとは少し言い過ぎですが、本質はそうなんです。従って設計者はその要求をいかに満足させるかにかかっています。ですから製品の価格が決まっているのなら、それを下まわる様に償却費負担を最小にする専用機でなければならないし、発売日が決まっているのならそれに間に合うように専用機を作らねばなりません。そして要求される生産量と品質をも満足させなければ完全な専用機とはいえません。従って単に設計者の思惑だけで設計する事は、ゆるされないわけになります」

「そこまで聞きますと、普段なにげなく図面を引いている事が恐ろしくなりますよ、もっと設計する時には哲学的に考えてそれを基本においてから始める事にしますよ。そうでないと大分ムダをしそうですね」

「そこまでわかって設計していただければ必ず設計の方向をまちがえる事はないでしょう。そればかりか、標準を使うべきところは使いこなし、また特注に設計しなければいけない所は自信を持って事にあたれそうですね」

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