温故知新 自動化アーカイブス 第8回

自動組立機導入に関するメーカ側よりユーザ側に対する提言

「自動組立ニュース」Vol.4 No.5(昭和50年5月1日発行)
セイコー精機鰹ネ力機課課長代理 伊 藤  潔

まえがき

数年前までは相当むずかしいとされた自動組立も,最近ではそうめずらしいものではなく,ごく普通の機械と 同様に導入が企られ,実施されて実生産に大きな役割をはたしている時代になってきた。このようになってくると,初めはその導入にためらいをみせていたユーザも,この分野の進出をあやぶんでいたメーカも,各々名乗りを上げ,今や自動組立機は時代のエースとして脚光を浴 びるようになってきた。

我国の機械メーカ,装置メーカもこの点を重視し,高性能の組立機の研究開発はもとより,製造の合理的体制作りをはかり,外国メーカとの技術提携や特許,ノウハウの収得等により,自動組立機メーカとしての確立を急いでいる。一方,ユーザは自動組立機のより一層の効率的導入を検討し,同種企業の中でいち早く安定した自動組立生産を行い,省力化による原価引き下げや,品質向上と生産性の増加による収益の増大を現実化しようとして力を入れている。

しかし,この自動組立機は他の工作機と比べ,組立作業の自動化という性格上,産業分野が明確でなく,歴史的にも経験が浅く対象分野が広いことから,技術的にも体系ずけにくい状態になっている。従って当節のように自動組立があたり前のようにいわれるようになっても,依然として,技術的問題や導入上の問題が山積されており,機械のメーカ,ユーザの立場からこの問題が指適されても,論理的解決は別として,実産業界では明確な解決の得られない状態が続いている。

今でもメーカの立場では「自動組立機は手離れが悪い。」, 「採算がとれない,赤字が多い。」と技術部門は常 に経理部門より指適され,導入するユーザからは, 「うまく稼動しない。」「稼動率が低い。」「高い。」等と言われている。

1. 自動組立機に関する問題点

自動組立機に関する問題をさらに考えてみると,大きく二つに区分できそうである。

一つは組立機そのものの問題である。すなわち,ある組立対象物を設定した場合,いかにして自動的に組み立てる機械装置を製造するかということにつきる問題である。例えば,整列,供給,装入,組付,移送,検査,排出,制御等の安定稼動をどのようにしてなしとげるかという問題で,各社各グループともその個有技術の開発と促進に努めてきた問題である。

もう一つは,自動組立機の導入に関する問題である。ユーザは組立を単に自動化機械を設備するということで なく,いかにして投資効果の高い組立機を入れるかという問題に直面し,メーカはユーザの期待に応えながらも,いかにして採算性のよい組立機を製造販売するかという問題につきあたっている。ユーザとして自動組立機の計画導入はいかになされるべきかという点については,多くのユーザの関心のある所であり,最近問題として取りあげられ始めており,当自動化ニュースにも数回解説されているが,メーカの立場の問題については,いまだ具体的な説明はなされていないので,ここで提言し,考えて頂きたいと思う。

2.自動組立機メーカの立場の問題

自動組立機の導入や使用が一般的なものとして普及されてきた現在でも, 「自動組立は難しい」とか「うまく 稼動しない」とかいわれている。これは自動組立機を計画する段階で,技術的検討が不充分であったり,導入のための種々の問題点や,条件が未解決であったり,未整理であったり,またその評価基準があいまいであったため,適正な効果測定がされず,正しい判断がなされない結果にはかならない。

従って,自動組立機を成功させるためには,メーカとしても引き合の段階であらゆる角度から調査検討を行い,積極的に問題の解決を計らねばならない。

ユーザが組立機の導入活用を企るときの計画手順や,評価法については,当ニュースにも数回に渡って紹介され,その意とするところは理解されていると思われるので,ここでまた頁を費すつもりはないが,問題を具体的にするために,ここで組立機と他の専用機を比較してみて考えたいと思う。他の専用機の例として,加工専用機を取りあげて考える。

組立機が他の専用機と大きく変わる点は,まず第一に,扱う部品の種類が最低でも2種,多い場合は数十種になる点であろう。第二に,この多数の部品を挿入したり,重ねたりして組立るために,圧入,ねじ締め,カシメ,溶接,接着等の作業が自動化されることが必要となってくるわけであるが,組立品の品質に影響がなければ,その作業法が他の作業におきかえられても一向に差しつかえないという点である。従って,第三にはこの組立方法には一つの方法しか存在しないのではなく,組立手順または部品の構成,形状等をかえても最終組立品の品質や機能を低下させたり,原価上昇が生じたりしなければ,人手であっても機械化されてもどちらでもよいということになる。従って,従来の人手組立中心の設計を機械組立中心の設計に変更すれば,機械化有利という線が出るし,人手中心の方がペイするとすれば,人手中心になる。いいかえれば組立作業はいつでも人手中心に切り換え可能であるといえる。

また,第四に,精度が比較的うるさくないという点である。部品と部品のはめ合い,位置合わせ,積重ね組み立ての高さ等の精度が仮に高いとしても,それが組立作業そのもので精度出しされることはまずなく,普通は組立要素である個々の部品の精度が高められていれば,必然的に組立精度の上るものが多い。仮に組立そのものによって精度を出すことがあっても,治具の考案や,選別組立等によって解決することが多く,組立機による精度出しは不要で,組立作業に不都合が生じない程度の移送,位置決め精度があれば充分ということになる。

しかし,一方,加工専用機では取り扱う部品の種類は1種類で,部品数もたまに複数個取付加工の場合もあるが,普通はほとんど1部品対象である。従って,自動化された専用機でも部品の供給は1か所で行われ,組立機のように多数のパーツフィーダやマガジンが,並んで稼動したりすることはない。半自動機の場合は,部品の供給は1サイクルごとの停止時に人手によって行われ,ワーク供給後,再び起動スイッチを入れるという作業が続けられる。取り扱う部品の種類や数が少ないかわりに,加工作業の内容は複雑なものとなってくる。例えば,加工の種類は,旋削,フライス,ポンチング,穴明け,リーマ,ねじ立て,ダイス等の刃具加工,平面研削,円筒研削,内面研削やラッピング等の砥粒加工があるが,これらによる作業内容は,単加工の場合は工程動作が複雑となって,サイクルタイムは長く,複合加工の場合は,工程動作はなるべく単純化してサイクルタイムの短縮をはかるのが普通である。しかし,部品加工に要求される作業内容を変更することはむずかしく,部品図に指示されている通りの作業を行わねばならない。部品の加工内容が変更されるときは,組立方法の改善や,最終製品の機能の改善によって派生的に要求されることが多く,部品独自での改善はまずない。またもし,部品独自での作業内容の変更が行われるとしたら,それは設計時点でのVAの検討がいかにおろそかにしていたかを示すこと以外のなにものでもない。ただ例外として,加工部品の整列供給の場合の形状変更はありうる。

さらに,部品の精度を考えると,組立機より大体一桁は高いものが要求される。組立機では, ±0.l〜±0.05mmの精度が一般的なものであるとすれば,加工機は±0.05〜±0.005mmの仕上精度が必要であろう。この精度を保つには加工のための大きな負荷がかかっても,変化しないだけの機械精度と剛性が必要で,長期間のくり返し使用が行われても変化しないだけの静的,動的安定性が不可欠となる。すなわち,加工機においては連続使用に充分耐える精度保持が主題となってくる。

従って部品の加工が不可欠であるとすれば,完全自動加工機を半自動,単能機として使用することはできたとしても,機械作業を人力におきかえることは,まったく不可能なことで考えられないことになる。

組立機と加工機の根本的な違いは,この点にあると思われる。結局,組立機の場合は部品加工と異なって,組立作業そのものに主体があるというよりも,組立品(製品)の要素としてのワークに主体があると言える。従ってワークにより大きな主体性のある組立機を製造する立場と,従来より続けられている加工専用機を製造する立場とは,おのずから相違があるはずである。加工機の場合は専用機としてのレイアウトには汎用性が少なくとも,加工手段には汎用性があるので,組立機とは異なりメーカ側だけで加工精度を上げる開発なり,研究なり押し進めることができ,さらに生産性を高める工夫をしたり,長時間運転や,無人稼動による省力化の推進,またNC化やコンビュータコントロール化をはかり,製品化し量産化することも可能である。しかし,組立機には,それが非常にむずかしい状況にある。組み立てという言葉で統一はされているが,組立機のツーリングは部品の集合体である製品の機能,構成,部品の大きさ,形状,数量,材質等によって大きく変わり,類似品であっても全然異質なものとなってしまう。従って,一つの組立機を製造することは,まさに一品料理的にその都度開発をくりかえすことになる。機械に主体がなく,ワークに主体がある以上,組立機の構成要素を取上げてみても同じことが言えると思う。例えば,移送を主とするベースマシン,組立作業ユニット,パーツフィーダ等を考えてみても,本質的に共通性,汎用性のあるものは現在の状態では非常に少ない。この共通性,汎用性を仮に大きく打ち出すと,原価の壁が大きく立ちはだかってくる。汎用性を大きくすればするほど,原価は上がりメーカよりユーザへの売値は上昇し,使いきれない状態になる。ユーザとしてはおそらく,自社の自動化にぴったりの機能をもった,むしろ単純な価格のやすい装置を欲しがっているのが現状であると思える。このことは汎用性の非常に高い高級なロボットや,パターン認識の可能な汎用性の高い選別装置,数種の製品の切り換え可能な組み立てシステム等を考えてみれば,現在のユーザでどの程度需要があるか,一目瞭然であると思う。需要のない製品は,研究開発の技術的可能性の追求や,将来の製品の種としての価値は高くても,メーカーの商売にはなりえないことは,充分御理解頂けると考える。

ワークに主体があるということは,とりもなおさず,ワークを設計製造するユーザに主体があるということになる。このことは,当自動化ニュースの組立機の導入について,いかにすべきかという解説を読まれれば,さらに明らかになる。例えば,第3巻の11号, 12号,第4巻の1号等で発表なさっている諸先生方の主張を再読して頂きたいと思う。第4巻1号の吉村先生の「自動組立機の導入について」という解説の中に,設備のユーザとメーカの分担の仕方という表がのっている。この表をお借


  表1 設備のユーザとメーカの分担の仕方 (分業の10段階)

りしたのが表1である。自動組立機の導入を考えた場合,その組立機が完全にユーザの期待を満すための手段としては,このような分担はまさに理想的であり,又,このようでないと,実際使用上のトラブルは防げないだろう。ここで特に注意して頂きたいのは,初めの設備計画の段階で,すでに程度の差はあっても,メーカが参画していることである。すなわち,この段階でワークに関するあらゆる条件や検討経過の状況,考え方等が情報としてメーカに流されていなければ,効率的な自動組立機の基本構想は生まれ得ないということが,この表で表現されているように思う。

今まで,我々がメーカとして組立機を製造する場合,この点がスムーズに情報として得られ,検討に参加させてもらったときと,不充分な情報しかないときでは,大きく結果に影響があったことは,まったく身をもって体験している。従って次の段階での基本構想,詳細設計でのユーザの参画も同様に必要となり,デバッキングやランニングテスト等は,当然,両サイドの責任と協力が必要となってくることは言うまでもないことである。

しかし,従来組立機以外の設備機械でこれほどメーカとユーザが共同せねばできなかった機械はあったであろ うか? 汎用工作機は勿論のこと,専用工作機にしても,部分的協力はあっても,組立機のような共同活動は不要であり,メーカの技術や製品を,ユーザはいかに自社の製造システムに適用させるかを独自で考えればすむことであったはずである。

組立機の導入稼動について,問題となる原因のほとんどが,この点よりでているように思えてならない。ここで組立機に関するユーザ,メ-カの代表的不満の声を整理してみたい。

「ユーザの立場から」

(1)機械の信頼性がなく,安定性にとぼしい。
(2)稼動率が低く,省力効果が期待ほどない。
(3)価格が高すぎる。
(4)納期が長すぎる。
(5)技術的に信頼出来るメーカが得られない。
(6)他社に,自社の製造ノウハウが流れるのではないか。
(7)投資効果が低く,機種変更等の融通性が少ない。
(8)多種少量生産に適さない。
(9)納入後のサービスが悪い。面倒見が悪い。

「メーカの立場から」

(1) 1機種ごとに開発要素が入り,開発費の吸上げが難しい。
(2)部品形状や組立方法が人手中心になっているので単なる機械への置き換えでは,メカニズムが複雑になり,コストアップになっても理解してもらえない。
(3)ユーザが企業秘密とか,技術的社内ノウハウが外へもれることを恐れるあまり,技術や図面等の情報をメーカへ教えない。
(4)ワークの形状,精度が図面指示通りにできておらず,カエリやバリ,ソリなどの状況,不良品の発生混入,異物の混入状況等の情報が,どたんばにくるまでわからない。また,ワークの誤差の集積が機械要素の精度を左右したり,自動組立そのものの成否を左右する技術的問題が,製造中になってからでてきたりすることが多い。
(5)仕様変更や大改造になる変更要求が簡単に出される。
(6)ユニットのシリーズ化,標準化等による効果が,他の汎用工作機や専用工作機に比べてみいだせない。
(7)ノウハウ料等の商取引の通例がなく,ノウハウを尊重しない。
(8)見積や構想要求が多くても成約にむすびつかず,中止の理由が明確でなく,単なるノウハウや,情報の流出になることが多い。
(9)自動組立を導入するステップをとびこえて,高度な自動化システムを要求するなど,技術的に無理が多い。
(10)ユーザの自動組立機の使用技術や理解が低く,導入技術部門と使用製造現場部門との間に,意志の疎通がなかったり,教育体制がなく,メーカが間にはさまれ苦しむことが多い。
(11)ユーザのトップ層の理解が得られないまま,技術部門の興味先行型でつっぱしるユーザがある。
(12)結果として,メーカでは手離れが悪く,採算性が悪い。

3.自動組立機メーカとしての意見

自動組立機の発展の状況を考えてみると,どうも私には従来の工作機と,大分異なるように思えてならない。この考えは私一人の独断的考えかもしれないし,ユーザの人々や他のメーカの人々はもとより,場合によっては私共の会社の仲間からも反論されるかもしれないが,話を続けてゆくと,メーカーはどうなるのかということになりそうである。

自動組立機を導入する際,計画の段階より検討に参加し,ユーザの各関係部門の意見や,生産の状態や技術的レベル,おかれている立場等を理解して基本設計に入ることは理想的なことであることは充分述べた。しかし,現在の自動組立メーカ,特に工作機を兼ねている所などでは,このようなことが現実として無理なく受入れられるであろうか? 私には疑問である。小人数で運営され ているコンサルタントとしてのメーカやエンジニアリング会社や,小企模な人数で自動組立部門を構成しているメーカ等は,ユーザの会社と密着して協力を行うこともでき,相互信頼関係において協力し合えるかもしれないが,企業として自動組立メーカとして,大きくその分野を伸ばすことはむずかしいように思える。もし,今後そう言う意味でメーカが大きく伸び,ユーザに対し価格の手ごろな,信頼性の高い自動組立機や要素を供給しつづけるには,少なくとも,次のようなユーザの理解がなければならない。

機械装置として工作機ほどうるさくなく,ワーク情報や,生産情報を必要とし,また場合によっては製品設計変更や,工程変更を必要とし,製品ノウハウの流出を恐れ,開発及び製造投資金額が大きいからといって,又,保守保全が容易であるからといって,ユーザ社内の工作カや外注利用による自動組立機の製造を企り,メーカをただ単なる外部情報やノウハウの収集の窓口として利用し,適当なユニットの供給者としてのみ扱かったらどういうことになるであろうか? おそらく,答はメーカの衰退,枯渇以外の何ものでもないだろう。自動組立機はおそらく,今の初歩的段階を経て,さらに大きく進歩し,高速自動組立機や連続型自動組立機の段階に入り,またアッセンブリセンターのような汎用性と多種少量生産の融通性に富む組立機の段階に入ることは充分予想される。こめような段階に入るパイオニアはだれがつとめるのだろうか? この段階でも社内生産ができるのだろうか? これを考えると,ユーザの組立機導入の諸問題に対し,当然理解は出来るものの,やはりメーカの立場,メーカの育成というものをもう少し考えて頂き,将来に対するものを考えて頂きたいと思う。現在でも,組立機を社内生産した場合,綿密な原価計算を行えば,自社製はメーカ製のものよりはるかに高く,ときには2倍, 3倍に値するはずである。

「メーカとしての提言」

(1)ユーザは自社の自動組立機の導入について,自社能力の活用はもとより,技術コンサルタント等の外部力をプロジェクトチーム等に参加させ,計画を綿密にたて,概略の基本構想案又は構想設計を行う。
(2)ユーザは基本構想案または構想設計を基にメーカに基本設計を発注する。メーカは現実の基本設計を行い,改善案が途中であればユーザと協議し,設計をまとめる。これをユーザの発注第1段階とする。
(3)第2段階でメーカは詳細設計に入る。ユーザはメーカと定期的に打ち合わせを行うが,基本設計での了解事項はユーザにまかせる。
(4)第3段階で製造に入るが,詳細設計完了時までに,ユーザ都合の変更があれば,検討し第2段階,ときには第1段階までもどる。
(5)製造が完了すれば,メーカが据付け,試運転を行い,デバッキングが完了し,初期の目的の機能を発揮すれば,ユーザ側へ組立機を引きとる。
(6)日常保全,修理に関しては,ユーザ側が自己の工作力を活用し担当する。メーカが保全を担当する場合は,別途保全契約を結び定期点検を行う。勿論,メーカ側のクレームはメーカが万全の処置をとる。
(7) 1項より6項までの業務を契約するためには,ユーザは次の事項を認識する必要がある。
  @ 技術レベルの高い,経験豊富なメーカを選ぶ。
  A 段階ごとに契約し,その責任を相互にはたす。
  B ユーザの製品情報の提供を綿密に行う。秘密主義では駄目で,相互信頼が原則となる。
  C 必要あれば別途,ノウハウの保秘契約を行う。
  D 組立機の導入に対しては,トップより現場までの全社的理解と真剣な取り組みをはかること。
  E 自動組立機のメリット,評価基準を明確にし,どの程度を要求するか,第一段階で提示すること。
  F 計画進行中での変更はできるだけなくし,各段階の契約は各段階の終了時まで有効とすること。
  G 価格引き下げのためできるだけメーカ保有の標準品の活用をはかった企画を採用すること。

以上,自動組立機に関し,常々考えていたことを話したつもりであるが,何分つたない表現のため思うことの十分の一も話できない状態である。皆様の御賢明な御推察と御理解を頂き,お許し願いたい次第である。


組立機メーカーよりユーザーへの一方的発言

「自動組立ニュース」Vol.4 No.12(昭和50年12月1日発行)
富士機械製造梶@浅井鎬一 ・磯貝武義

多数の自動組立機がユーザー自身の手により製作されたもの又は,組立機専門メーカーの手により生産されたものなど実用化され,生産ラインの中で実際に稼働していることは技術の進歩の上で誠に喜ばしいことであります。

しかし,自動組立機発展の歴史の上では,これほど多くの機械が実稼動する処まで行けず,スクラップへの道を歩んだ生産設備機械もなかったと聞いております。又,学問的にも今なお,自動組立について解明されておらず,多分に経験的に処理されているようです。技術的にも,生産計画上の問題など多くの頭の痛い問題を多数抱えながら,なおかつ組立を自動化する機運は現在の景気低迷時にあっても高まりつつあり,又それだけ価値のある機械が自動組立機であると言うことができると思います。

さて,一歩あやまれば,大きな危険を持った自動組立機は,組立てられる品物についての知識と,その組立機械についての充分な知識の協力なしではできないものであります。組立てる品物についての固有の知識は当然導入するユーザーに,機械についてのハードの知識と一般的なソフトの知識は組立専門メ-カーに多種の自動組立機を製作した経験として持っていること.になります。

一例をあげれば,ベースになる搬送機構を持った機械部品の整列,その部品の装入,機械の制御などについてのメカニックな部分は,多種の機構,標準化されたユニット,実績経験のある機械などを用意しております。部品の結合,製品の機能上の検査などについてはユーザーの長い間その製品を生産された技術,経験が物を言うことになるのであります。このように両者の技術的協力の結晶が自動組立機であります。

このようにして作る自動組立機のメーカーとして,ユーザーの皆様に御理解願いたい点を二三申し上げ,メーカー,ユーザー共に満足できる自動組立機が一台でも多く世に出ることを願うものです。引き合いから検収までには種々のトラブル,誤解が発生しますが,これ等は充分な情報交換により防げる内容がほとんどのようです。

1.引き合い時

(1)先ずユーザーは自動組立機導入計画の主眼点を明確にして頂きたい。これは組立機械の設計製作思想の源流となり,機械の性格を決定する主要因となるものです。省力化,品質の向上,生産性の向上,生産量の調整,単純作業の排除,高温高湿等の悪雰囲気と作業者の分離,等々の何れが主目的であり,それに付随したどのような効果を期待しているのかを組立機の導入計画者は把握してメーカーに提示する必要があります。一般的にこれ等の目的は複合しておおり,決して単純な動機で立案計画されたものではありません。この事は導入メリット及び投資計画に当然考慮されるべき問題であります。にもかかわらず省力人件費のみにて予算を立てられるユーザーが多いものと思われます。

近年メーカーの機械製作コストは上昇の一途を辿っており,このような場合,価格的に折り合わないケースが出ているようです。

(2)前項で述べたように自動組立機の基本思想を関係者に浸透させて頂くと同時に,導入計画者及び担当者は機機完成検収時まで責任を持って対処して頂かなければなりません。これが一貫されない場合,応々にして基本構想とかけ難れた機械となり,多大の費用,時間を費やしたにもかかわらず不満足な結果となるようです。

(3)自動組立機では特に稼働率が問題となります。稼働率の定義が学会でも確立されていない現状で稼働率80%といわれても機機完成時の実稼働段階で問題となります。実生産量/理論生産量×100を稼働率としても実生産量は組立完了した良品数を数えれば良いのですが,理論生産量の基となる稼働時間には停電時間,休憩時間,段取り替え時間,設定外の不良部品排除時間等を含める場合,含めない場合で大幅な数値の差異が表われます。稼働率の取り決めは互いに充分納得して取り決め  ておく必要がある。

2.仕様書作成,見積書提出

(1)仕様書作成に当たって引き合い内容を充分は握し仕様に反映することはもちろんでありますが,組付部品に対してメーカーとしでは納得できるまで調査を行った上で仕様作成作業に進めることができるかどうかによって以後の進行に大きな影響があります。

組立部品は全て良品で図面と全く同じである場合はまずありません。不良品,異物(プレスの打ち抜き,クズ等)の混入程度を知ることはその対策,作業者を入れるべきか否かを含めて機械全体の問題として解決しなければならないのです。組立部品が社内で製作されているのか外註依存しているのか,外註からはマガジンに入れて納入することが可能か不可能か,どのような運搬方法でその間に発生する部品形状変化はどの程度か,検査方法はどのように行われているのかまで,調査する必要があります。これらの調査が予めできない新製品の立ち上がりと同時に自動化が行われる場合では後々まで尾を引くことが多いようです。

(2)新技術を開発するために試作,実験,研究を心要とする例がありますが,これは互いの協力によって行われるべきであり,その成果は提供し合わなければなりません。メーカーに実験を依頼し,その成果を受けて,ユーザーが独自で設備を作られることがありますが実費を払ったとしても許されることではありません。

メーカーは初号機の完成には並々ならぬ努力をし,リスク負担の意味で少々高い価格で受註しても採算ベースに乗らない場合があります。このような機械を一面的に見て高いとして自社でコピーされる例がありますが企業のモラルとしてこのようなことがあってはなりません。

(3)充分調査検討した仕様でも,これを基に再度検討すれば修整すべき内容がでてきます。見積金額の変更を伴うのが一般的ですが金額決定後であっても仕様変更による金額変更を認めて頂かなければなりません。

(4)以上の如く仕様書一通と言ってもメーカーは種々の調査検討を重ね多くの時間,費用を費やしていることをユーザーは理解して頂きたいのです。

特に自動組立機の場合,仕様計画の良し悪しが,最終の機械の稼働に大きく影響します。A社の仕様は面白いが見積が高いから,安いB社に作らせて見ようかなどと,いかにユーザーは王様とは言え,行われて良いこととは言えません。前の項目でもふれたようなコピー製作,仕様の横流しなどと,悪政の下に居る良民は苦しみ,国は栄えません。

3.設計段階

(1)仕様作成段階までにも増して情報の交換は密にしなければならないのは当然ですが,組立品は現在自  動組立を前鍵にした製品設計が行われていない場合がほとんどのようですから,自動化を容易にするための製品の設計変更に協力して頂きたいのです。

この手法については諸先生の書籍,論文,雑誌等に多く発表されておりますので参照して下さい。

(2)機械の設置条件は設計,開始前,できれば仕様段階で決定して頂かなければなりません。 2階, 3階に設置される場合は,特にマシンハッチの大きさと床強度,又ピットを設ける事ができるのか等,設置場所の条件を明確にしておかないと機械搬入時のトラブルとなるようです。

(3)承認図は納得のいくまで検討に返却して下さい。特にノウハウに関する事柄(ネジ廻しのビットナットランナーの口もと,カシメポンチの先端等)は入念に打合せする必要があります。図面に基づく組立工数は機械価格の2/3残る1/3が調整作業に使われると言われております。この調整作業がほぼノウハウとなる訳ですから,いかに大切なものか御理解願えると思います。

4. メーカー工場における立会時

(1)組立部品の数量は充分に用意して頂かなければなりません。できる限りユーザーが自工場で稼働する際と同じ物である事が必要です。

ビス1本,ワッシャー1枚でも同じ物を数度使用することは,実際の稼働時と異るわけでこれは極力さけなければなりません。新品と再使用品を用いることによる差異は想像以上に大きいものです。組立部品の精度及び状態は当初の打合せ通りにして頂か  なくてはなりません。部品が悪い,機械が悪いと互いに責任の押しつけ合いになるケースがまま有ります。組立部品のロットによる差異がトラブルの原因となる場合さえあるのですから注意が必要です。

(2)機械の完成後予定外の類似品もできるようにせよと強引に要求され仕様の追加,変更を依頼される場合があります。技術上可能,不可能は別にしても納期,価格,生産計画上互いに損失をこうむるだけです。仕様作成段階遅くとも設計時までに決定すべきであります。

(3)自動組立機は,部品と組立てる機械であり工作機械のようにマザーマシンとなるものではないことを認識して頂かなければなりません。特にメーカーが工作機械メーカーを兼ねている場合,ベースマシンの精度云々が先に立つユーザーがおられるようです。

精密部品を組付ける場合のように,当然必要とする精度はださなければなりませんが,一般的な組立品では,それほど必要なものではありません。不必要な精度向上は価格上昇を伴うばかりで組立機本来の機能性向上には役立ちません。

5.検収

(1)メーカー工場における立合時に問題点を網羅し改造,修正を完了しておくべきでユーザ工場における検収立合は,再確認的意味の立合にしてほしいのです。

例えば,カバー1つにしても再製作となればメーカー工場で製作,運搬し,組付作業者を出張させるとなれば簡単なカバ- 1個が数万円のコストになってしまいます。省資源の方向から言ってもそのような事があってはなりません。

(2)機械が実稼働に入ってもトラブルは生じますが作業者の質にかかわるトラブルまでメーカーで責任を持つ事はできません。

従来その組立作業を行っていた単純作業者をそのまま機械担当者として頂いても機械を満足に運転できるものではありません。機械とその機能を理解して運転できる人である必要があります。 1個の部品のシュートの詰りを発見できず,徒に機停止時間を増す等はその一例です。

以上,組立機メーカーとしてユーザーの方々に一方的に,協力やら,依頼を申し述べましたが,メーカーとしても,更に新技術の開発,すぐれた標準機構,ユニットの整備,コストダウンと努力するものであります。

利用でき得る個所にはできるだけこれ等の実積の有る各々ユニット等を利用していただくことが,それだけ納期,コスト,技術の面で有利であることは申し上げる必要もないものと思ます。もちろん,既製品的技術を押し付けるものでは決してなく,その組立られる品物に応じた技術をユーザ-,メーカー,更にはユニットメーカーと数社の技術協力によって,優秀な自動組立機を製作するには,これまで申し上げたことなど重要なことになるのではないかと思われます。

ユーザー皆様が自動組立機メーカーをはぐくみ育てる気持でもって,これ等の内一点でも多く気を配って頂けるならば,よりスムースにより良い機械ができ上ることと思います。

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