温故知新 自動化アーカイブス 第1回
会報委員 渡辺 広志
株式会社東京自働機械製作所
記事名:カム機構設計の要点(その1)
執筆者:牧野洋(山梨大学工学部)
掲載号:自動組立ニュース1973.2〜1973.7(全6回)
1.まえがき
いろいろな会社で開発している自動組立機械の現物を見たり、ときには構想設計図を拝見したりしながら感ずることは、「カムに弱い」設計者が多いことである。カムをまともに設計し、使いこなしている会社は数えるほどしかない。自動組立機械のメーカーの中にすら、カムの使い方のまずい会社がある。ましてユーザー自作の機械では、ほとんどといっていいほどカムがまずい。そうして、カムの設計がまずいものだから、エヤシリンダやソレノイドなどの手軽な機構に逃げようとする。そのことはもっとまずい。機械ができてしまってから、うまく動かすことができずに四苦八苦することになる。
一方において、簡単な自動機械、たとえばマンジュウを作る機械とか、皿に模様を印刷する機械とかで、非常にうまくできた機械がある。そうした機械はたいていカムやリンクをうまく使っている。こういう機械を作っているのはほとんどが無名の小企業であり、おそらく、大学出の設計者など1人もいないだろうと思われる。そうしたところで良い機械が作れるのに、ハイクラスの設計者がごそごそいる会社で良い機械ができないのはなぜか。これを「経験」という言葉だけで片付けることはできない。「経験」よりももっと以前のもの、いわば「常識」とでもいうべきもの、それがあるかどうかということ、技術者としてまっすぐなものの考え方ができるかどうかということ、問題はそこにあるのではないかと筆者は考えている。
2.自動組立機械開発の王道
自動組立機械にはカムが多く用いられる。1台の機械に40枚、50枚、のカムが使われることも珍しくない。それはなぜか。なぜ、カムでなければならないのか。
その理由は次のようなことであると考えられる。
1)組立機械は複雑な多数の動作の複合を必要とする。
2)組立機械は動作速度の速いことを必要とする。
3)組立機械で扱う部品は比較的小物であることが多い。
4)組立機械内で必要とする動作ストロークは比較的短いことが多い。
5)組立機械は信頼度の高いことを必要とする。
以上のような条件はカムにもっとも適したものであるということができる。組立機械はカムをもちいなければならない。各社の標準機械がほとんどすべてカムを用いていることはこのことを立証している。
カム機構の利点は次のようなことにある。
1)運動特性が良く、高速に耐える。
任意の運動特性を与えることができるので、負荷の特性に応じた曲線を選択でき、速度・加速度が始終端を含めて連続であるかのようにできるので、スムースな運動を期待できる。
2)確動機構であって、同期がとりやすい。
エヤシリンダに動作指令を与えても、エヤシリンダは確実に動くとは保証しがたい。空圧が落ちていれば動かないし、バルブにごみがつまれば動かない。したがって、エヤシリンダを用いる場合にはストロークの終端にリミットスイッチをつけて、その動作を確認することが必要である。しかし、カム機構では、そのような確認機構は通常必要としない。カムを回せば、従節は決められたストロークだけ動くに決まっている。すなわち、カムは確動機構(positive drive)である。
カムでは、ある時間内にある距離だけ動くことが明確であるだけでなく、その時間内のどの時点で従節がどの位置にあるかということも明確である。したがって、ある動作が終了に至らないでも、次の動作と干渉しないならば次の動作を始めることができる。つまり、動作のオーバーラップをとることができる。このことによって、カム動作のサイクルタイムをさらに縮めることができる。
中略
3)故障が少なく、保守が容易である。
カムは油さえ塗っておけば、きわめて安定に動作してくれる。
中略
そんなわけで、高信頼性を要求される組立機械はどうしてもカムに頼らざるをえないのである。もちろんカムにもいろいろな欠点がある。それらの欠点を克服し、カムの設計技術をわがものにし、そのことによって確実な自動組立機械を作るようにすること、それが自動組立機械設計開発の王道である。
中略
3.カム機構の欠点
前稿では、カム機構の長所を述べた。しかし、カム機構は長所ばかりではない。むしろ、非常に欠点の多い機構である。カム機構の欠点が何であるかを知ることは、カム機構をうまく使ううえで、きっと役に立つだろう。カムがだめだという人は、カムの美点を殺し、カムの欠点を生かして使っているからなのである。その逆にすれば、きっとよい機械ができることだろう。
以下、カム機構のそれぞれの欠点とそれに対する対策を述べる。
3.1ストローク調整
エヤシリンダを用いる場合には、ストッパの位置を変えることによってストロークを任意に変更することができる。しかし、カムでは運動のストローク(stroke. 移動距離)は一定で、変えることができない。これはカム機構の欠点の一つである。
カム機構を用いてストロークを調整しようと思えば、カムの外、すなわち従節系に細工をしなければならない。
中略
よく、終端にばねなどのクッションを置いて、カムのストロークを縮めて使っている例を見かけるが、これはもっともまずい方法である。カム曲線は、一般に終端で速度・加速度がゼロになるように決められているのに、せっかくのその特性を殺して使うことになるからである。
ストッパに当たったときにvなる速度が残っているものとすれば、可動部の質量をmとすると、mv=ftなる大きさの力積の衝撃を生ずる。この衝撃による加速度は、たいていの場合、カム曲線の最大加速度をはるかにこえる。すなわち、せっかくよいカム曲線を使った価値がなくなるのである。
中略
スワンソン・エリー社(Swanson-Erie Corp.)のQシリーズの機械などでは、ばねの代わりにエヤを用いている。これをエヤ・スプリング(air-apring)と呼んでいるが、要するにクッションのはたらきをする。ばねよりもエヤのほうがよい。なぜならば、ばねは振動要素であるが、エヤはダンピング要素であるから。
3.2タイミング調整
カム機構の欠点としてストローク調整がむずかしいことを前項で述べたが、さらにむずかしいのはタイミングの調整である。
中略
さて、割付角そのものは変えることはできないのであるが、次のようなことは可能である。
(1)動作の始まりの位置(位相 phase)を変えること。
(2)動作時間を全体的・比例的に増減すること。
まず、(1)は、具体的には、軸に対するカムの取付位置を変えることによって行なう。これは、キーによる締結の場合にはできない。何か他の方法をとらなければならない。
中略
次に、(2)の動作時間の増減すなわち動作速度の増減はもちろん、カム軸の回転数を変えることによって行なう。一つの軸にいくつものカムがついているような場合、カム軸回転数を変えれば、カム相互間のタイミング関係を変えずに動作速度を変更できる。これはむしろ、カム機構の利点といえるものである。空圧機構だとそれぞれのスピコンを調節し直さなければならないところだ。
カム軸回転数を変えるのは無段変速機によるのが一般的である。
変速機はVベルトタイプのもので十分である。変速機と減速機の両方を使用する場合には、変速機は減速機の前(モーター寄り)に入れる。
中略
タイミングの調節に関して、もう一つ忘れることのできないのは、インデックス・カムにおける停留時間の調節である。手作業の入った回転形の自動機械などで、テーブルが停まっている間に仕事をし、仕事が終わったらテーブルを回したい。もし、インデックス・カムによってこのテーブルを回すとすると、停留時間を手作業時間の長短に合わせて一回毎に変更しなければならない。その方法はクラッチ・ブレーキによるのが普通である(文献:牧野洋「搬送機構(11)」、自動化技術第3巻第4号)。この場合、クラッチを入れる位置はインデックス・カムと減速機の間が一番よく、減速機と電動機の間がこれに次ぎ、電動機の前、すなわちブレーキモータを用いる方法はまったくよくない。イナーシャの大きいモータをいちいち回したり止めたりすることは、動力の損失にもなるが、それよりも応答性が悪く、サイクルタイムの損失になる。このような方法が堂々と用いられているのに度々お目にかかることはまことに情けないことである。
3.3過負荷保護
エヤシリンダは、それ自体過負荷保護機構になっているが、カム機構では別に過負荷保護のための機構を必要とする。これはカム機構の大きな欠点である。最も、このことはカムの確実動作の裏返しなのであって、過負荷でもないときに不完全動作をしてくれるような機構では困るわけである。
そこで、カムを使う以上は、過負荷をどこで逃げるかということを考えておいてほしい。これこそ設計者の頭の使いどころであると思われる。
過負荷保護は、原則的に言えば、動作の末端に入れるほどよい。それぞれの運動部分に、それぞれ過負荷保護機構を入れるのが原則である。
中略
過負荷保護は、なるべくカムよりあと(動作部寄り)に入れたいのである。カムより前に入れると、再運転時の位相合わせの問題が残る。カムの前に入れる過負荷クラッチは、従って、スリップクラッチではなく、一定の位相で再起動できるクラッチを用いなければならない。
中略
減速機より前に過負荷クラッチを入れると、利きが悪くなって、よほど大きな過負荷でないと作用してくれない。指をはさんだくらいでは止まってくれなくなる。
クラッチなどをいれなくても、電動機にはオーバーロードリレーがついており、仮にそれがなくても工場の配電盤にはヒューズがある。それで十分だと、貴兄はお考えになるであろうか。
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