自動化こぼれ話(187)空中付けの妙技

山梨大学名誉教授 牧野 洋

手作業で組立を行う場合、普通は両手の協調作業でこれを行う。例えば、薬瓶の蓋をねじ締めするとき、左手に薬瓶を持ち、右手に瓶を持って締めていく。

ところが、機械あるいはロボットで自動組立するときにはそうはいかない。まず薬瓶を治具に位置決めし、回り止めのクランプをしてから、おもむろに蓋を取りに行き、蓋と瓶の芯出しをしてから蓋のねじを締めていくことになる。治具が必要である。これはロボットが片手しかないからだと喝破した人がいる。

産業用ロボットが開発された初期の頃、富士通が2台のロボットを使って、空中付けの実演をやった。治具などを使わずに、2台のロボットがそれぞれの部品をハンドで掴んで直接組合わせようというのである。この試みは見事に成功し、このショーはやんやの喝采を浴びた。

それから30年、現在では各社が双腕ロボットを開発し、人間に似た動作を行うようになった。そのなかではカップを片手に持ち、ソフトクリームを回しながら入れていく、などの妙技も披露されている。

二つの部品を組み合わせるとき、そこに別の機械なり治具を必要とするということは、部品をローカルフレームに合わせる動作(位置決め)の回数を増やし、部品の位置の不確定要素を増やすことにつながる。(例えば部品を落とせば、部品は傾くかもしれない。)マルチアームによって空中付けを行なえば、位置決めの信頼度が増し、各アームの並列動作が行えることによって、サイクルタイムを短縮できるのでないかと考えている。 ただしそれには、ロボットが十分な精度と妥当なコンプライアンスを持つことが必要であろうけれども。