自動化こぼれ話(185)移送とは

山梨大学名誉教授 牧野 洋

病人は「搬送」するのに、犯人は「移送」する。どうしてだろうか。どうして病人を移送したり、犯人を搬送したりしないのか。

以前に、精機学会(現精密工学会)の自動組立専門委員会(現生産自動化専門委員会)の中で「組立機械用語」の審議をしたことがある。その時に一番審議に時間がかかったのが「移送」と言う言葉で、なんとこの一語を決めるのに5時間かかった。

英語にはtransfer(トランスファ)という言葉があり、これはそのまま日本語でもカタカナで使われている。機械の場合、ワークをステーションから次のステーションに運ぶ、と言う意味である。これを定義するには、ワークとは何ぞや、とか、ステーションとは何ぞや、ということで、定義は果てしなく広がる。

この議論にケリをつけたのが委員長の谷口紀夫先生で、transferを「移送」と訳すことにしよう、とおっしゃって、それで決まったのである。

その頃はまだ移送という言葉は一般にはあまり使われていなかった。それがどこかの犯人が捕まって移送されたことが新聞やテレビで大々的に報じられた時には、何となく嬉しかったことを覚えている。