自動化こぼれ話(179)人型ロボットによる組立の自動化

山梨大学名誉教授 牧野 洋

機会があって人型ロボットによる組立工程の自動化ラインを見学することができた。ロボットは川田ロボティクスのNEXTAGE、工場はグローリーの埼玉工場である。

以前から疑問に思っていたのは、人型と機械型(例えば、スカラ型や垂直多関節型)との違いである。人型にすると、何か良いことがあるのか? 使い勝手はどう違うのか? 人型が少し器用だとか、機械型が少し早いとかはあるかも知れない。けれども、それが機種選択の決定的な要因になるとは思えない。

工程を丁寧に案内して頂き、両社の責任者のご説明を聞いていくうちにだんだん分ってきた。人型の長所は導入しやすいということである。現在人手でやっている作業をそのままの形でロボットに置き換えることができる。工程を逆順にしたり、製品設計を変える必要がない。

一例として、双腕ロボットを考える。これがもし単腕のロボットだとすると、人が左手で行っている作業をどうするかを考えなくてはならない。逆に三腕だったとしても、余った三つ目の腕を何に使うかを考えなければならない。双腕であれば、人間のやっている作業をそのままの形でロボットにやらせることができる。ロボットを人間通りに作れば作るほど、人間とそっくり置き換えることができる。 ロボットにあまりなじみのない生産技術担当者にとって、これは都合が良い。明日からでもロボットを導入して、それなりの効果を上げることができるだろう。

ただ、これが最適の解だとは言いにくい。神様が人間をお作りになったのは5百万年も前のことであるのに、工業生産の始まったのはたかだか2百年前のことであるからだ。だから、人の手は、木の枝にぶらさがったり、ミカンの皮をむくのには適しているかも知れないけれども、自動車の部品を組むことは考えていなかった。

今、もし、神様が自動車部品を組むのに適した人間の形を作るとしたら、どんな形になるだろうか? それを考えて人型ロボットを作ればきっと良い機械ができるに違いない。

マンではなくて、スーパーマンを目指そう。それが私の考えです。

良い機会を与えてくださった両社の方にお礼を申し上げるとともに、人型ロボットを実用域にまで高めた両社のご努力に対し深い敬意を表するものです。