自動化こぼれ話(178)ダイレクト ティーチング

山梨大学名誉教授 牧野 洋

ロボットの教示方法の一つにダイレクト ティーチング(direct teaching)がある。これは作業者がロボットのハンドまたは工具を直接手に持って動かし、その動作をロボットに記憶させる方法である。

ダイレクト ティーチングを最も早く採用したのはノルウェーのトラルファ社であると思われる。同社は塗装用ロボットの開発に当たってこの方法を採用した。

例えば洗濯機の外箱に白色塗料を塗るとする。外箱をフックで吊り下げ、ぐるぐると回しながら、ロボットアームの先端に取り付けたノズルで吹付塗装を行なう。このとき、塗料を一様に塗るためには吹付ノズルをどのように動かしたら良いか? 平らな面に一様に塗料を塗るにはノズルを上下左右に動かしながら塗っていくのであろうが、このとき、幾何学的に正確にスキャンすれば塗料が一様に塗れるというものではない。吹き付けた塗料は重力で垂れてくる。下から塗るか、上から塗るか。曲面や凹んだ面はどう塗るか。

こんな時、熟練作業者はこの複雑な作業をいとも軽々とやってのける。その作業をそのままロボットに覚え込ませれば良いのではないか。

そのためにトラルファはロボットの塗装用のガンに取手を付け、熟練作業者がその取手を直接に握ってロボットアームを操縦できるようにした。こうして塗装用ロボットが実用化された。

このようなダイレクト ティーチングが必要とされるのは、塗装用のほかにも、お習字ロボット、お絵かきロボット、彫刻用、バリ取り用などがある。組立用ロボットの場合でも、作業の種類によってはダイレクト ティーチングの方が望ましいことがある。

こうした教示を可能にするためには装置が逆ドライブできなければならない。ウオーム減速機のような非可逆機構は使えない。平歯車でも、高減速比になるとなかなか負荷側から逆に回せない場合がある。

機構があって、始めて制御が可能になるのである。

ロボットのティーチングを行なう場合に、伝統的にティーチング・ペンダントが用いられている。その代表的なものはロボットの各軸ごとに+方向、−方向を指定するボタンがあり、これを少しずつ押しながらロボットを目的の位置まで動かそうとするものである。ペンダントにはこのほか、いくつかの補助動作のためのボタンやスイッチもついて居る。