自動化こぼれ話(177)ティーチング バイ シミュレーション

山梨大学名誉教授 牧野 洋

ロボットのティーチングを行なう場合に、伝統的にティーチング・ペンダントが用いられている。その代表的なものはロボットの各軸ごとに+方向、−方向を指定するボタンがあり、これを少しずつ押しながらロボットを目的の位置まで動かそうとするものである。ペンダントにはこのほか、いくつかの補助動作のためのボタンやスイッチもついて居る。

ところが、直角座標形のロボットであればこれで済むかもしれないが、多関節形になるとボタンを押したときにロボットがどちらに動くか分らない。まして、ハンドの(位置ではなくて)姿勢を変えたい時など、どのボタンをどう動かしたらよいか分らない。ロボコンなどでは、この操作に習熟した人が勝ちを収めることになる。

そこで、少しましなペンダントになると、軸座標系でなく、ワールド座標系で動作を指示できるようになったものがある。ワーク、あるいは工具のxyz座標、および、その各軸まわりの回転ABCで目標値を与え、その方向にロボットを動かそうとするものである。実際の位置姿勢は目で見て確認する。

この方法で操作性は改善されるが、精度は改善されない。目視では、途中に障害物があったりして、よく見えない場合が多い。狭いスリットに薄板を嵌め込むのなど至難の業である。3次元曲面形状物体の溶接など、教示に非常な手間と時間がかかる。

ではどうするか。

シミュレーションを利用するのである。

幸い、3DCADの進歩により、ロボットの置かれる環境、ロボットおよび関連機器、ワーク(作業対象)およびその部品、それらの時間的な変化、をディスプレイ上に表示し、条件を変えながら観察することが可能になった。これを利用しない手はない。ペンダントを捨てて、机上のマシンによってティーチングを行おうではないか。すでにいくつかのロボットメーカでは、この方向に進みつつある。しかし、すべてのモデルが、ソリューション・センターのシミュレーターに入っているという状態にはなっていない。ユーザがワークをソリューション・センターに持って行けば、その場でロボットの動作プログラムができるというのが理想であろう