自動化こぼれ話(171)ターンキーシステム

山梨大学名誉教授 牧野 洋

東京電力が福島に原子力発電所の建設を計画した時、原子炉の設備一式を米国GE社から「ターンキーシステム」として購入することを決めた。

ターンキーシステム(turn-key system)‐‐‐鍵を回すだけで装置が稼働し、目的とする結果が得られるシステム。購入者は装置の内部の構造や仕組みについて詳しい情報は知らなくても良い。 GEはすでに幾つかの原子炉を建設した実績を持っており、東京電力はそのうちの一つの図面をそのまま利用することにしたのだ。

原子炉の付属設備の一つに、冷却用の海水を汲み上げるポンプがあった。その揚程は10メートルであった。一方、福島の予定地は30メートルの断崖の上にあり、ポンプの揚程をこれに合わせるには大幅な設計変更をしなければならず、巨額の費用を請求されるであろうことが予想された。

そこで、東京電力は地面を20 メートル削って、10メートルの高さにした。何年か経って、高さ13メートルの津波が福島原発を襲った。それから後のことは、皆様ご存じの通りである。