自動化こぼれ話(160)ギョーザ中毒事件

山梨大学名誉教授 牧野 洋

中国ギョーザの中毒事件から一年がたった。原因が不明のまま、この事件は迷宮入りしようとしている。だが、私に言わせれば、この事件の原因ははっきりしている。

それを言う前に、事件当初にテレビで放映された事実を二つ述べておこう。

一つは、中毒を起こしたギョーザは、CO-OP向け製品の生産が開始された初日に作られたものだったということである。すなわち、品種切り替えの直後であった。

もう一つは、ギョーザ包装工程で作業していた女子作業員の言葉である。組長と思われるその人は憤慨してこう語った。「私たちは衛生にはずいぶん気を使っているのです。この袋だって、使う前に両面をきれいに拭いてからギョーザを入れています。」‐‐ハテ、そんなことをするだろうか? その布巾はあとどうするのかな?

食品機械や薬品機械は衛生面には十分な考慮を払って設計される。錆びやすい材質や潤滑油の使用は避けるとともに、機械を分解し易くし、長時間の停止・休止時には機械を分解して水洗いし、必要なところには消毒液を使って洗浄する。品種切り替え時には、こうした洗浄はとくに念入りに行なわれる。殺鼠剤メタミドホスはその時に混入したのではないか?

「それは調べた」と、捜査当局は言うであろう。消毒液には殺鼠剤は使われていなかった。けれども、工場内の他の所では使われたかも知れない。溝の掃除に殺鼠剤が使われたかも知れない。

そんな訳で、私が疑っているのは噴霧器のノズルである。どぶ掃除に使った噴霧器のノズルを、そのまま、機械を洗浄するときに付け替えて使ってしまった。しかも、彼の感覚としては、クスリは濃いほどよく利く。

という訳で、私の推理では、この事件は悪意による故意ではなくて、むしろ善意による過失だということになる。

おそらく、捜査当局にはそんなことはとっくに分っていて、それで「はい、終り」にするよりも、うやむやのままにして、日中両国民の食品安全に対する意識を高めたほうが良いと判断したのであろう。