自動化こぼれ話(155)人に優しいロボット?

山梨大学名誉教授 牧野 洋

「人に優しいロボット」とか、「人間と共存できるロボット」とかいうことがよく言われる。

たしかに、ペットロボットは人に噛み付いてはいけないだろうし、介護ロボットは病人を振り回してはいけないだろう。だから、ロボットはもっと人に優しくなくてはならぬ、というのはよく分る。

けれども、これは、「ロボット」の世界の話であって、「産業用ロボット」という機械の世界の話ではない。産業用ロボットというライオンを調教しても、猫にはならない。産業用ロボットを人間と共存させ、同じ組立ラインの上で働かせようという考え方は間違っている。人手の工程と自動化工程とは分離して、自動化工程の方は、柵なり、枠なり、網なり、籠なりで保護して、人間が近づけないようにするべきである。新幹線と同じである。スピードが遅いうちはチンチン電車として、街中を走らせても大丈夫であったが、スピードが早くなると防御壁を作らなければならなくなった。

自動化は全自動化を目指すべきである。少なくとも、それが機械屋の夢であり、それができない言い訳を他のせいにしてはならない。新幹線を街中に走らせるような試みは止めようではないか。

ロボット屋が狙っていることは、人並みの能力を持つ「マン」ロボットを作ることではない。われわれは「スーパーマン」ロボットを作りたいのである。その目標は達成されつつある。いくつかの高速機械においては、目にも留まらぬスピードで機械は動いている。ロボットはゆっくりと動かしたいというのであれば話は別であるが、それでは生産性は上がらないであろう。