自動化こぼれ話(150)振動はノイズではない

山梨大学名誉教授 牧野 洋

 機械のスピードを上げていくと、振動が出ることがある。この振動は普通は厄介者として嫌われていて、現場作業者はその対策に追われることになる。振動は、出ないことが理想的な状態であり、出る振動はすべてノイズであるとして、その原因のいかんを問わず除去することが望ましいとされている。

 ここで、ノイズ(noise、騒音)とは、シグナル(signal、信号)以外のものをいうのであり、予期しない出力、好ましくない出力はすべてノイズであるとみなされる。ノイズは一般に無秩序で規則性がなく、再現性もない。すなわち、ランダムである。

 ところが、機械振動を調べてみると、このようなランダムノイズではないということが分ってくる。同じ条件でもう一度測ってみると、同じように振動が出る。波形を記録すると、まっ たく同じ形だ。同じようにずれている。ガタとか摩擦とか、普通にはランダム要素と考えられるものも、どうやらランダムに利くのではないらしいということが分ってくる。

 ランダムでないとすれば、そこには原因があるはずで、振動の周波数や、起こる場所を調べていくことによって、振動を抑えることができる。振動の中には貴重な情報が含まれているのである。

 誤差にも同じような問題があって、工作機械の精度を調べたときに誤差があったとすると、その出方を調べることによって、それが加工精度によるものか、荷重による撓みなのか、それとも熱変形なのか、というようなことが分ってきて、それが次の設計に役立つのである。

 誤差や振動をやたら抑えるのではなく、そこに含まれた情報をありがたく頂戴しようではないか。