自動化こぼれ話(145)教祖の言うことを信じなさい

山梨大学名誉教授 牧野 洋

 カム機構やサーボ機構に用いる運動曲線として、NC2曲線やNC3曲線を開発してきた。

 「この曲線はどういう特徴があって、どんな所に使えるのですか?」

 (あれっ?今、説明したはずだけどな。)そう思いながら、また最初から丁寧に話をする。そんなことを何回か繰り返しているうちに、だんだん面倒くさくなってきた。

 「まあ、とにかく、使ってみて下さい」と、答弁は禅宗の坊さんのようになってくる。拭き掃除をしているうちにだんだん分ってくるでしょう。理論的に良いものは良いのだ。そのことが実験などで証明されるようになったのは、比較的最近のことである。

 サーボモータの制御などに使われている台形速度曲線というのがある。一定の加速度で立ち上げ、一定の速度に保ったのち、一定の減速度で減速する。この曲線は私の本の中では、悪い方から、いや、失礼、古い方から、二番目に紹介されているものである。  「カム屋が30年も前に放棄した曲線を、制御屋は、なぜ、未だに使っているのか?」と、ある講習会でぶったところ、会場は一瞬ざわめき、あとで司会の先生から、「あまり過激なことは言わないで下さい」とたしなめられた。

 また、これはもうだいぶ前のことになるが、ロボットに関する国際会議でスカラロボットの制御の話をしたことがある。会場から質問が出た。

 「お前の話で、カム曲線コントロールの良いことが分った。ところで、日本にはス カラロボットのメーカが何社かあると聞いているが、そういうメーカは皆この制御を使っているのか?」

 「使っているところも、使っていないところもある。」

 「使っていないところは、なぜ使っていないのか?」

 「そんなことは、俺は知らない。」 多分、教祖の言うことを信じていないからだろう。きっと。