自動化こぼれ話
山梨大学名誉教授 牧野 洋
パソコンを叩いている女房からときどきヘルプの声がかかる。
「ここはどうするの?」
「こうして、こうして、ちょいちょいと。」
まあ、いつもこう簡単にいくわけではないが、大体は簡単に解決する。
「何でそうなるの?」
「何でそうなるかというと、そうなるように決めてあるからなんだな。大体パソコンなんてものは、約束事の固まりなんだ。理屈なんてありゃしない。こうしたらこうなるという筋道を細かく決めてあるだけなんだ。」
「コントロールとアルトとデリートと、3つのキーを同時に押すとウィンドウスが立ち上がるのだけれど、この3つを押すとウィンドウスになるということは想像がつかない。醤油と味噌と砂糖を同時に入れればどんな味になるかというのとは訳が違うのだ。」
「強いて言えば、この3つのキーは、猫がキーボードの上を歩いても同時には入らないように設定してある。けれども、この3つでなければならないという必然性はない。」
そんな訳で、パソコンに強くなるためには、こうした約束事を数多く知っていなければならないわけだ。
前東大総長の吉川弘之教授は、東大の中に人工物研究所というのをお作りなった。その理由を訊いたところ、彼はこう答えた。
「考えてみると、コンピュータにしても、工作機械にしても、みんな人間の作ったものなんだな。人類以前からあったものじゃないんだ。こうした人工物を研究するには、それなりの新しい方法があるんじゃないかと思って。」
「なるほど。」
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