ロボット普及促進のために教示方法の改善策が必要

筑波大学 システム情報系 相山 康道(自動化推進協会理事)

このたび本協会の理事となりました.これまでずっと,大学で研究を行ってきており,主にロボットハンド(多指ハンド)やマニピュレータの力学,器用な把持・操り等の研究に従事しておりましたが,近年は産業用途を目指し,平行グリッパや位置制御マニピュレータを用いた,器用な作業の力学的な解析等に注目をしています.

大学でロボット工学に携わっていると,生産現場で動いているロボットや製造機器と教科書に載っている内容とのギャップにたびたび悩まされます.ロボット工学の教科書では,ロボットの動力学モデルを構築して,目標軌道から必要となる関節トルクを計算して,モータへ指令として与えなさい,となります.しかし実際にロボットを買ってきて動かすときには,ティーチングペンダントを使って位置を指定していくとプログラムが作成でき,そのプログラムを実行するとそのとおりの位置をたどっていきます.これは現在の用途とロボットにはかなり有益な指令方法であり,これを超える指令方法はまだないと言ってよいでしょう.

ただし,近年の視覚や力覚を備えたロボットとなると,ティーチングペンダントによる教示方法が適切なのか悩ましいところです.多くはティーチングペンダントで対応しようとしていますが,その操作は難しく,専門家でないと扱いに困るほどです.大学や研究機関では視覚や力センサはかなり古くから研究を行っていますが,基本的にはコンピュータ上でプログラムを書いてこれらのセンサ情報を基にロボットを動かす,という操作方法になります.これではやはりプログラムが書ける専門家に頼ることになります.

今後ロボットをさらに普及させる方策のひとつとして,中小企業への導入が挙げられています.自動製造ラインを持たないような会社にもロボットを入れて,作業者の支援をできるようにしよう,という流れは,ヨーロッパをはじめ世界全体で考えられています.視覚や力覚等のセンサ類が安価に使えるようになったことで,狭い場所でも人間と協働するロボットという使い方ができるようになりました.

しかしこのときの最大の問題は,教示の専門家を置けない中小企業でどうやって,そのような複雑な作業教示を行うか,という点です.少し前から教示方法の大きな改善を求める声は挙がっていますが,喫緊の課題となってきたと思います.

サービスロボットのデモンストレーションでは,指示は音声によるものが多用されます.映画等では一度やって見せるとそれをロボットが模倣する手法も散見されます.コンピュータのインタフェースが,パンチカード等からキーボード,マウス,タッチスクリーンと変遷してきたように,今後ロボットが大きく普及するためには,その教示に何か大きな変化が必要となってくるのだろうと思います.それはメーカーから出てくるか,大学・研究機関から出てくるか,全く異なるところから出てくるか,興味深いところです.