機械と情報の新しい視点での融合

早稲田大学創造理工学部学部長 菅野 重樹(自動化推進協会幹事)

「機械」と「情報」の融合は常にその重要性が指摘されている命題であるが、現実には企業の研究開発、大学での教育・研究のいずれの場面においても、融合の効果や具体的応用を示せた事例はほとんど無い。

ロボット技術には、機構、材料、設計、メカトロ、コンピュータ、ネットワーク、知能など、機械と情報の主な要素が含まれているが、これまでのロボットシステムは、これら要素の単なる組み合わせの域を出ていない。効果的な融合とは、機械技術が持つボディベネフィット(実在と力の効用)、情報技術が持つコンピューティングベネフィット(計算の効用)、通信技術が持つネットワークベネフィット(資源共有の効用)の複合的価値創出を指向し、生産、医療、モビリティ、環境エネルギーといった重要分野におけるアプリケーションベネフィット(問題を解くこと自体の直接的価値)を導くことにある。我々はこの融合を実体情報学と呼び、ロボットに留まらず、あらゆるシステムの設計論に適用を試みている(博士課程教育リーディングプログラムとして文部科学省に採択されている)。

下図は、この考え方を最新の手術支援システムに応用した例である。医工融合の代表としてロボット技術を応用した手術支援システムが開発され、世界中の病院で導入されているが、これは純粋に機械システムによる手術支援であり、手術の技量や知識はロボットを操作する医師に委ねら れている。

一方、病院への情報技術の導入として、カルテの電子化がある。各病院での手術データ、手術後の経過データなど、きわめて多くのデータ、いわゆるビッグデータを一元管理できるようになると、さまざまな手術における臨床例を参考にできる。手術中に、その患部の状況に似た症例を瞬時に検索し、手術例とその結果が得られれば、医師の知識を飛躍的に広げたことと等価となり、効果的な手術が行える。そのためには、現在の患部と手術の状況を瞬時に認識・判断し(高速演算)、データベースに照合し(ネットワーク)、結果をロボット(実在)とそれを操作する医師にフィードバックできればよい。これによって、テーラーメードの高品質な即時診断治療システムが実現できる。

この実体情報学を、3D製造技術や自動車群の知的制御技術(ITS)などを含む広い分野に適用すること、それができる技術者、学生を育てることが求められている。