日本の自動化技術の海外進出

株式会社新興技術研究所 熊谷英樹(自動化推進協会理事)

先の理事会において自動化推進協会の役割についての議論があったが、国内で自動化を推進するというだけでなく、海外に目を向けてみると当協会の技術を生かせる大きな可能性があるのではないかと感じている。

一つの例として、昨年ロボット工業会と自動化推進協会の会合では、中国に産業用ロボットを多数輸出しているがその周辺装置の技術がないために使いこなせないという問題を議論した。

一方で最近では日本の海外支援の枠組みの中に自動化技術教育が組み込まれることが多くなった。今までの機材にお金をかける支援から技術系人材を育成することにシフトしている背景がある。私も外務省が主導する事業で中央アジアの国の産業の発展を目指した自動化技術教育を行うプロジェクトを推進している。また、日本のODAで設立した「トルコ産業自動化技術トレーニングセンター」では隣国の職業訓練校の教員の自動化技術の教育訓練カリキュラムを作る指導を行っている。

技術指導を行う前はトルコの教員の得意分野である、PLC、モータ、電子回路と機械加工を断片的に教えているだけで、まるで工業高校の実習風景のようであった。教員が「自動化技術とは何か」を知らないので教えようがない。日本からは職業訓練校の講師などを過去10年間にわたって派遣してきたが、自動化推進協会が実施しているような生産現場に即した技術指導は行われてこなかった。

海外でプロジェクトを成功させるにはいくつかの秘訣がある。当然だが最初は自分との信頼関係を構築することから始める。この時に技術書の著者という肩書は大変にありがたい。

次にプロジェクトの定義と目的を明確化する。

トルコでは、「自動化技術教育の定義」について見直すことに丸1日を費やした。「自動化教育はモータやシリンダを動かす技術を教えればいい。」という意見や、「自動化全部では教える範囲が広すぎる。」などという話から始まった。教員の中には「自分たちが作ったカリキュラムを否定されたくない。」と考えている人も少なくない。こちらの意見を押し付けると、壁にぶつかったときに指導者や出した結論に疑問を持って頓挫する。彼らが自分たちで結論を出したということにしなければ、やる気を出さず責任を持たない。議論の末に彼らが導いた結論は、「自動化とは要素技術と要素のインテグレーションの技術である。」となった。自動化教育の目的は、「工場を自動化する設備を作る能力を開発する。」となった。そこで、自動化技術で必要な要素を分類することから作業を始め、自動化技術の最終目標に達するまでのカリキュラムを見直してから教科書と実習機材を準備した。

私は途上国への自動化技術教育の導入は仕事のない人たちを貧困から救う有効な手段だと信じて活動している。まだまだ沢山ある自動化途上の国へ自動化推進協会の持つ高度な技術力を提供する可能性について議論してみたい。