役に立つロボットとモノづくり

大同大学 教授 西堀 賢司(自動化推進協会理事)

このたび当協会の理事および中部支部長に就任いたしました。トヨタ自動車に6年、名古屋大学に10年勤めた後、現在の大学ではロボット工学を教えている。現在の専門はロボティクス・メカトロニクスで、超音波モータを指に持つロボットハンドや光学的手段を用いたセンサなどの研究を行っている。

長年、大学の講義では日本はロボット王国であると教えてきた。その中で東日本大震災が発生し、福島の原発事故が起きた。多くの国民は国産ロボットの登場を期待したが、しばらく経って最初に現場に現れたのはアメリカ製であった。 4月21日の中日新聞に載った社説で「日本のロボットは災害時になぜ使えないか」という疑問は国民の声を代弁するものであった。

実は原子力防災用ロボットは10年前に開発されていた。その前年に起きたJCO臨界事故を機に国の補助金40億円が計上され、合計11台のロボットが開発された。しかし、完成後に予算は打ち切られ、多くのロボットは改良されることなく倉庫に眠るか、科学館で展示されるか分解処分の運命にあった。もともと原発の安全神話のため、使われることなど考えられていなかったのが最も大きい理由と考えられる。現実では、強い放射能がロボットの集積回路を劣化させ、湿度90%以上、がれきが散乱した場所を移動という過酷な状況が明らかになった。今回の震災を教訓に国産の災害ロボットが真に実用化されることを信じたい。

アメリカではロボットは軍需ビジネスの中で育ち、実戦配備されて改良されている。一方、日本では技術力はあるが、なかなか実用化されない現状がある。災害ロボットに限らず、今後役に立つロボットの開発と実用化が求められる。私の研究室では最近、伝統工芸である有松・鳴海絞りにおける括り作業のロボットによる自動化の研究を行っている。絞り技法を習得している技術者は高齢化しており、後継者の育成も困難となっている現状で、ロボットに最後の望みを託された。

幸い科学技術振興機構の重点地域研究開発推進プログラム(地域ニーズ即応型)の平成21、22年度研究助成を受けて産学官で共同開発を行った。糸の代わりに伸縮性のある樹脂キャップ(絞り具)を用い、ロボットハンドに取り付けたニードルで布をキャップに押し込み、キャップの両端で染料の進入を防ぐ方法を考案した。装置の試作と実験からロボットによる自動化のメドも立った。

社会から求められる役に立つロボットの開発とモノづくりはこれからもやりがいのあるテーマであり、継続して行きたい。