技術者は何をなすべきか

山梨大学名誉教授 牧野 洋(自動化推進協会名誉会長)

今、世界は変わりつつある。中東アラブ諸国における民主化運動。個人の趣味の対象と思われていたインターネットが、世界を動かす力となった。石油を始めとする天然資源の枯渇、それを巡る政治の動き。レアーアースのような希少資源すらもが国際経済に影響を与えるようになった。そして、地震、洪水などの天災、地球温暖化。この原稿を書いている時にまさに起こった東北太平洋沖大地震による津波の被害は、予想を超えた規模でわれわれの上に襲いかかっている。

このような時にわれわれ技術者は何をしたら良いのか? ただただ手をこまねいて見ているしかないのか?

10数年前のバブル経済の崩壊の時がそうであった。日本の技術が素晴らしいと褒められ、のほほんとしている間に経済が一気に崩落し、生産の自動化などはもっての他、コストの安い海外への生産移管が進んだのであった。その結果、半導体生産は右往左往し、日本の優位は崩れ去った。

技術とは何か。技術者とは何か。技術者は何をすれば良いのか?

私の考えでは、技術とは問題を解決する力である。問題が存在するとき、それをどのように解決するかを考え、実際に解決する‐‐それが技術である。そして、その解決が可能であるためには、日常から技術を高める努力をしておかなければならない。問題が起こってから勉強を始めたのでは遅い。原子炉が爆発する前に、爆発の危険を想定し、二重三重の安全を施しておかなければならない。「原子炉は絶対安全だ」と言っていたのは誰だ。多分、技術者ではないだろう。絶対安全ではない原子炉を絶対安全に近付けるために、技術者は何をしなければならなかったのか? それが、絶対安全だと言い張ったために、安全に対する対策を怠ったのではないか?

原子炉の配管ミスがあって、そのために放射能漏れが出たとする。それによって工事をした作業者は罰せられる。ミスを見逃した検査官も罰せられる。だからミスをできるだけ隠そうとする。それで終わりというのが、今の日本の風潮である。福知山線の電車が引っくり返っても、悪いのは運転手だけである。そうだろうか? もっと何か技術的に打つ手はなかったのか? 無理に線路を曲げたのがいけなかったのではないか。たった0.3Gぐらいの横加速度で引っくり返るようなレールの構造が悪いのではないか?

ガレキを片付けるのにはパワーシャベルが要る。それを素手でやれば何年かかるか分らない。パワーシャベルを用意しておいて、それを必要な時に現場に供給できるようにする。これは誰の仕事だろうか?

身の回りを眺め、工場の中を見渡した時に、問題は山積されている。その問題点を明らかにし、その解決策を提示するために、技術者はもっと声を上げて大声で叫ぶべきではないか?