自動化推進協会に期待するもの

金沢大学大学院自然科学研究科 神谷好承

生産における自動化は、グローバル化の中で、我が国の経済において「本当に大切なキーテクノロジーである」と自身に言い聞かせつつも、近年「果たしてほんとうにそうなのか」と考えさせられる一面が出てきているように思われる。「ものづくり」という名のもとで近年その成果は上がり、我々の身の回りにおいては物が豊富になり、生活は確かに豊かになっている。しかし、昨今資源の枯渇と環境問題を意識しなくてはならない時代に入り、社会構造を根本的に考え直さなければならない時代に入ってきているのは確かである。こうしたグローバル化の時代において「ものづくり」をどのように考えるべきかの答えを見つけることも大変であるが、各国の利害が絡むため、それを実行する方法が容易に見つかるとも思えない。先進国首脳会議(サミット)においても環境問題に対して明確な実効性のある具体的な方向性が見出せないのと同じことだと思われる。それぞれの国がその国の国益を優先することが求められ、その国の国民をより豊かにしようとする競争的環境の中におかれた「ものづくり」においては、より多くのエネルギを消費し、結果的には人類の終焉をより早めることに繋がっていってしまうのではないかと思われてくる。

そもそも資本主義とは貧富の差があってこそより効率的にその経済効果を上げることができる考え方であると言える。資本主義による経済発展に右肩上がりはあっても右肩下がりは想定されにくい。また、原油に代表される資源の枯渇も想定されているとは言い難い。従って、現代社会における自由競争による「ものづくり」においてはそこに秩序が求められ、「ものづくり」と政治との関りの重要性が透けて見えてくるような気がしてくる。これより、資源の枯渇と環境問題を考えたとき、人類を持続可能ならしめるような新たな社会基盤の創り直しが今こそ世界的に求められているのではないか。これを可能にするのは政治であり、それを支えるのは国民(人類)の賢さであるのかも知れない。

かつて「ものづくり」は人件費のより安い地方に生産拠点を移し、機械による生産の自動化技術はあまり評価されず、技術より人件費の方が優先される時代があった。生産拠点を外国に移すことにより今もその考え方は続いていると言える。こうした努力により、同じ製品でもより安く作ることができてきたが、こうした手法がこれまで通り長く続けられるのであれば技術はあまり必要とされてこないのかもしれない。

これより、先行きの見えにくい、また具体的方向性を与えられない「ものづくり」を現段階で総括することを試みる。「ものづくり」に関る技術をすぐに役に立つ、立たないといった経済効果や活動とすぐに結びつけるのではなく、芸術や文学のように眺めることができる心の広さと寛容さを期待したい。そして「ものづくり」に関る技術を継承・発展させることを自動化推進協会の存在意義にしていこうではありませんか。そしてもっと自由に技術の可能性を芸術として楽しめるNPO法人として育てていこうではありませんか。

P.S. 金融経済が実体経済を大きく上回っている今日の日本経済にその現実があるとき、明確に意識せずとも、こうした状況を敏感に感じ取っている今の学生に「ものづくり」に興味を持たせたり、意欲を引き出させることは容易なことではない。例え「ものづくり」に関する仕事に就いても、実際に手に汗して物を作ることよりも「ものづくり」をマネジメントすることを指向するであろうし、またそのことがより給与を高くし、いわゆる出世することに繋がっているからである。その昔、江戸時代において、農民の作った作物を売り歩いた商人が最も儲けた事と似ている。武士はその物の流れを統括し、今風では官に相当する仕事をしていたことであろう。

今の学生たちの「ものづくり」に関する意欲の無さを嘆くこともよくわかるが、そうした学生たちを作り上げてきたのは今の効率重視の社会であり、従って、例えものづくりに近い職種に就いてもものづくりの現場を離れて管理職になることを優先させるであろう。情けないことは「ものづくり」の現場に存在する技術よりも「ものづくり」によって生み出された製品をマネジメントする方が重要視されている現実であると思われる。職種により大きく格差を付ける社会は、ある一つの方向に向って効率よく全体を動かそうとするやり方であり、多様性を大切にする社会ではないのかもしれない。

金融経済には実体は無く、そこには「信用」が必要であり、それが金融経済を支えていると考えられる。実体のない経済は非常に脆弱であり、崩れる時は非常に早い。また、金融経済を極めれば、その脆弱さゆえに、必ず崩れる時を迎えるものであり、そうした時に経済を支えるのは実体経済である。実体経済は容易に崩れにくい面を持つが、それを作り上げるには時間と能力と経験を必要とし、そんなに容易なことではない。「ものづくり」そのものは実体経済の基盤であり、我々はその基盤となる技術を失ってしまわないように、現在は日が当たらず報われることは少なくてもいずれ「ものづくり」技術の復権が求められる日が来ることを信じ、頑張って持続・発展させていかなくてはならないと考える。こうしたことをご理解の上、「ものづくり」に関する技術が継承・発展していくことを切望し、長期的展望をもって、より多くの国民の方のご支援をお願いしたいと考える。