ロボカップ参加の体験

東洋大学工学部機能ロボティクス学科教授 松元 明弘
自動化推進協会 常任理事

 今回,本協会の運営活動に参加させていただくことになりました.よろしくお願い申し上げます.この場をお借りしまして,簡単な自己紹介を行い,その後本題に入りたいと思います.

 私は本協会の第2代会長の新井先生の元で大学院生として2年,助手として5年活動しました.学生時代から,自動化推進協会のことはよく耳にしておりました.学部生時代には,機械運動学の教科書で牧野先生の洗礼(打撃?)を受け,今,ロボット工学を専門にしておりますが,いまだに牧野先生の手のひらの上でうごめいているだけではないかと思うことがあります.その中で使われているベクトル解析による機構解析やカム曲線の設計法については現在学部生の授業の一部に取り入れております.その後牧野先生に直接お会いする機会が増え,いろいろと教えていただいております.さて新井先生の元では産業用ロボット言語の標準化活動に従事し,このおかげで日本産業用ロボット工業会(現,日本ロボット工業会)を通じて産業用ロボットの開発をされている企業の方々と知り合うことができました.またこの活動は国際標準を目指して,ISOのワーキンググループにも日本の代表の一人として出席し,特に80年代後半から90年代前半まで(それはちょうど私が東洋大学に転出してからですが),年に3,4回の会議出席のため海外出張し,これを通じて,外国,特に,ドイツ,スウェーデン,アメリカの代表の方々と知り合うことができ,また会議における交渉術も身に着けたことは,今も私の財産になっております.英語に関しての制約をあまり感じなかったことと,元々異文化への興味があったことが幸いしました.こういう機会を与えていただいた新井先生には感謝しております.新井先生には研究の内容や進め方だけでなく,経済や文化(特に食文化)のこと,ものの考え方などを多面的に指導していただきました.新井先生の元でなければ私の今の道はなかったはずです.

会場調整の様子
写真1.会場写真2.調整の様子

 さてロボカップの話に移ります.ロボカップはその活動が始まってから10年たちますので,テレビ番組や新聞,もしくは学会誌や雑誌でご存知のことでしょう.私の場合には,学生時代にサッカーをやっていたことと,理化学研究所を中心とした研究プロジェクトにおいて,自律分散型ロボットシステム(多数のロボット要素を協調的に作動させることにより高度な作業を信頼性高く実行するシステム)の研究に従事していたことから,ロボカップの創立者の一人である大阪大学の浅田先生から誘われたのがきっかけです.ロボカップには,実機部門,シミュレーション部門,レスキュー部門などさまざまありますが,私の参加しているのは,実機部門の中型機リーグです.これは視覚も頭脳もバッテリーも持った自律型ロボット(大きさは直径約50cm以内.実際には細かい定義があります)を複数使用してチームプレーを行うものです.  今年は人間のワールドカップに合わせてドイツのブレーメンで世界大会が開催されました.今年の私のチームは学生7名と私で構成され久々の海外での大会に参加しました.写真1はその会場で,写真2は調整の様子,写真3は試合風景です.自律ロボットですので,試合中は人間が操作することなくロボットは自分自身で判断をして動きます.我々は今年の大会では24チーム中ベスト12で終わりましたが,大会開始前の技術チャレンジでは第3位に食い込むことができ,学生たちと喜びを共有しています(写真4).

試合風景表彰状
写真3.試合風景写真4.表彰状

 私にとって,ロボカップは研究成果の披露の場であると同時に,高度技術者教育の場でもあります.ご承知のとおり,ロボットはメカとエレキとセンサとソフトの融合物です.我々は機械系なので,画像処理や知的判断処理については見よう見まねでやっておりますが,メカはすべて自作です.メカの設計からその制御はまさにメカトロニクスです.授業やちょっとした学生実験だけでは不十分であり,研究室に配属されてから本格的に勉強します.ロボカップは対外的な活動を通じて高い技術を学生たちに学んでもらう絶好の場です.勝ち負けがつくものには負けたくないと思うのが当然ですので,その気持ちを知識や技術の吸収につなげてもらいたいと思っています.また,単に技術力をつけるだけでなく,チーム内のメンバーと協力して活動し,また学外,海外の人々と交流し,異文化の中に身を置くことで得られる体験は重要です.学生時代にこういった経験をしておけば,社会に出てきっと役立つ人材となることを確信しております.なお,この活動を始めて9年目にしてやっと大学から公式に資金援助をいただくことができました.この場を借りましてその援助に対して感謝の意を示します.