スカラロボット ロボットの殿堂入りのお知らせ社団法人精密工学会生産自動化専門委員会 委員長 新井民夫(東京大学教授) 私たちの専門委員会・協会の創立者である牧野洋先生を初め、委員・会員や先輩たちの多くが開発にかかわってきたスカラロボットが、このたび、カーネギーメロン大学のロボット殿堂入りを果たしたことをお知らせします。 日本生まれの産業用ロボット「スカラ」*1が、このたび、米国カーネギーメロン大学(CMU )*2のロボット殿堂入り*3を果たしました。山梨大学名誉教授牧野洋博士は6月21日にピッツバーグにおいて開催された式典に出席し、生みの親として栄誉の盾を贈られました。CMUのロボット殿堂は、科学と空想科学の両方の分野の優れたロボットを顕彰する権威のある賞で、日本からは、ホンダの「アシモ」、手塚治虫の「鉄腕アトム」(米国名アストロボーイ)に次ぎ、ソニーの「アイボ」に並ぶ3件目、産業用ロボットとしては米国の「ユニメイト」に次ぐ2件目の殿堂入りとなります。 CMUの発表文書は次のように紹介しています。 スカラは1970年代・80年代に開発された廉価版の産業用ロボットである。 また、おなじ文書の冒頭では、ロボット「スカラ」のことを“a ubiquitous industrial robot”ともいっています。ユビキタスとは「遍在」、すなわち「神のようにあまねく存在する」という意味ですから、「どの生産現場を訪ねても遍(あまね)く使われているロボット」ということです。アメリカで1960年代に生まれたロボット「ユニメイト」*4が産業用ロボットの元祖として最初に選ばれ、それを普及させたのが1970年代に日本で生まれたロボット「スカラ」であったという評価でしょう。 スカラは1978年1月に当時山梨大学の若手教授であった牧野洋氏によって設計され、命名されました。それは、精機学会自動組立専門委員会(1969年創立、現在の生産自動化専門委員会)や、自動組立懇話会(1972年創立、現在の自動化推進協会)に集まって日本の初期の自動組立を担った学者・エンジニアのひとつのコンセンサスであった「一方向組立」の思想をみごとに機械の形にして見せたものでした。研究を支えた企業は「スカラ研究会」*5を組織し、多くは社内用途のために試作しましたが、まもなく外販に進出し、1980年を日本の「ロボット元年」とする原動力の一つとなりました。 日本ロボット工業会によれば会員企業の2005年のスカラロボット生産台数は4,429台です。世界の累計生産台数については、統計がありませんが、おそらく26年で10万台を超えるものと思われます。 本件に関するお問い合わせ先: 特定非営利活動法人自動化推進協会 事務局 須田大春 <参考資料> 1.スカラ SCARA Selective Compliance Assembly Robot Arm山梨大学牧野洋教授が1968年に提唱・開発した産業用ロボットの構造。コンプライアンス(ここでは法律に対する従順性ではなく、“外力に対する従順性=たわみ/外力=1/剛性”の意味)が軸ごとに異なる(それ故、selectiveな)ので、鉛直軸は倒れにくく、水平面内ではやわらかく自動位置あわせしやすい組立用ロボット・アームのこと。後に、肩と肘に関節を持つ水平多関節ロボット一般をスカラというようになった。 2.カーネギーメロン大学 CMU Carnegie Mellon University一代で鉄鋼財閥を築いたアンドリュー・カーネギーがピッツバーグに1900年に創立したアメリカの名門総合大学。物理学・化学・経済学の3分野から13人のノーベル賞受賞者を輩出している。昨今ではコンピュータサイエンス・ロボティックス・エンターテイメントテクノロジーに力を入れている。 3.ロボット殿堂 RHOF Robot Hall of Fame ®CMUのRI(ロボッティクス研究所)とETC(エンターテイメントテクノロジーセンター)の共同プロジェクトとして2003年に創立した、ロボットの殿堂。空想科学と科学を一緒に扱っているところが最大の特徴。22名の審査員には、浅田稔(大阪大学)と金出武雄(カーネギーメロン大学)の2名の日本人ロボット工学者が含まれている。今年度の5件を加えて、次の14件のロボットが入っている。
4.ユニメイトとスカラの比較
5.スカラ研究会牧野教授をバックアップしてスカラ・ロボットを開発するためのゆるやかなコンソーシアムとしてスカラ研究会が結成された。メンバーは次の13社である。
幹事会社ナイス株式会社の近藤祐嗣社長(1983年没)は、自動化推進協会の事務局長を兼務していた。13社のほとんどが、スカラを作ったり、売ったり、使ったりした。また後に株式会社諏訪精工舎(現、セイコーエプソン株式会社)などが参加した。 以上 |