”ものづくり立国日本”の復活を志向しよう

国立長野高専 電子制御工学科 専攻科主担当 教授
自動化推進協会 常任理事  山梨大学 非常勤講師
山崎 保範

 約10年振りに北京に行ってきた。閑古鳥が鳴いていた王府井大街はもとより、それに直交する建国門内大街などには世界のブランド直営店も多く、活況を取戻していた。また、一歩路地へ入ると、路上で自転車パンク修理を開業したり、泥鰌を裂いていたりして、真に東京オリンピック前夜の東京の活気が見られた。

 必ずしもスマートとは言えないがドロドロとした熱気、日本の1/10の労務費、広大な領土に眠る資源、正直“かなわない” という思いが過った。日本では台湾・韓国製に替わって、Made in China が幅を利かせている。そう言えば20年前のNew York でMade in USAの土産を探すのに苦労したのに似ている。“イギリスで起こったことはアメリカで、アメリカで起こったことは日本で、ついでに、日本で起こったことは東南アジアで起きる”の例に漏れず、このまま日本の“ものづくり”は衰退してしまうのだろうか。

 別に愛国者を気取る気はないが、一人のエンジニア(生産技術者)として、日本のものづくりが無くなるのには耐えられない。それに、研究開発の成果としての知的財産の取得は当然の権利義務であるが、プロパテントだけで、本当に企業競争力が増し、生活水準の永続的な向上が図られるのだろうか。ものづくりの現場が目の前になくても、国際市場に受入れられる商品開発はできるのだろうか。

 単に生産コストを低減させるためだけの海外生産移行にはリスクを孕んでいる。宗教や文化の差による労務管理、電 気・水などのインフラ、政治・制度の急変など、日本では考えられない問題が起きる。労務費にしても、既に台湾では日の2/3、韓国では1/2と、上昇の一途を辿っている。IT時代の今であればなおさら、隣国の生活水準に近づこうとするのは当然であり、同一化していくだろう。低労務費をもとめて海外拠点を移す度に、また新たなリスクを負う。

 ここで、敢えて大上段に構えて“ものづくり立国日本”の復活のための生産技術例を挙げてみたい。キーワードは、地球環境保全の意味からも、省資源・省エネルギとした。

@1個生産ができる超フレキシブル自動化システム:労務費 に依存せず、多様なニーズに応えられる、輸送が最小限の消費地生産指向。

A自動分解・分別システム:リサイクル・リユースを考えた製品設計を含む。

BAdd 型成膜・パターニング技術:ほとんどの材料を棄て、大エネルギ消費のフォトリソに替わる、エプソン下田氏提唱のμ液体プロセスなど。

C精密射出成形・鋳造・鍛造技術:後加工不用なまでに精密 であることが必須要件。ナノカーボン・金属などの材料開発、分散技術を含む。

 これらの生産技術開発に対して公的助成をする一方、輸出された生産技術・装置へのロイヤリティ徴収を義務化するなどのブーメラン効果軽減のための規制も必要かと思う。