サービス工学のすすめ

東京大学 人工物工学研究センター長
自動化推進協会 名誉会長
新井 民夫

 「トン当たりいくら」という製造物の表現方法がある。トン当たり0.5万円の鋼材が熱延鋼板となると2.5万円、車になればその100倍の250万円になる。ロボット(マニピュレータ)は40kgで400万円もするものもあるから、トン当たりは1億円になる。

 材料を変形すると価値がつき、それをより複雑な形にして機能を生み出せば、より高くなる。そこで「機能あたりの価格」あるいはその逆数である「価値=機能÷コスト」といった表現が価値工学として用いられている。ここで、コストは製造物を入手し、機能を使うために要する全ての費用である。しかし、製造業に働くものはしばしばコストとは製造費用、機能とは設計者の意図で決まるはずと考えて、原価からコストを計算し、設計者の思い込みで機能仕様を決めてきた。しかし、物が不足していた時代ではその思い込みが通じても、物が余っている時代ではこの図式が成立しない。そこで、「オープン価格」という名前で、消費者が価値を決めるという仕組みが始まったのである。

 しかし、製造業に携わる我々技術者は「消費者が価格を決める」と言いながらも、実は製造者側の論理を押し付けることに慣れていて、変えようとしていないのが現実である。  私の居る人工物工学研究センターでは、いまサービス工学を提案している。一言で言えば、物としての製品を製造する工学ではなく、消費者にサービスを提供する工学である。つまり、消費者へ物質を所有させるのではなく、サービスを消費させることが製造業の目的であると考える。このような考え方は、すでに多くの人たちが指摘している。たとえばGEのウェルチ会長は「GEはジェットエンジンを売るのではなく、飛行機が安全に飛ぶ能力を売るのだ」といっている。コピー機は機械を売ることより、複写するという機能で儲けている。しかし、製造業全体を見れば、このような発想の転換を実現した産業はまだまだ少数であり、大多数は「トン幾ら」の視点から抜け出られない。

 ではどうやって、製品をサービス化するのであろうか。製品は、サービスの実質的内容である「サービス・コンテンツ」と、コンテンツを搬送し、増幅・変化するための仕掛けである「サービス・チャネル」からなると考える。そこで、サービスコンテンツの価値を高め、方法を考えるというのが基本的な方法論である。サービスの消費者が次のサービスの提供者になるという連鎖で、最終消費者の満足を予測する。そのための設計支援ツールを開発している。製品のサービス化で製造業が変わるお手伝いをしたいと頑張っている。