自動化こぼれ話(140)モータのワット数

山梨大学名誉教授 牧野 洋

 ある所でモータのワット数の計算式を求められた。重量物を複雑な経路に沿って動かすのだが、これを2台のモータで分担している。その瞬時瞬時に双方のモータにかかるトルクを求め、その最大値からモータのワット数を決めたいのである。

 仕方がないから綿密な計算式を作ったが、どうもこのやり方は私の主義に合わない。いい加減な私の主義では概算でモータの容量を決め、作ってみて、足りなければサイズをもうひとまわり大きくするというものである。しかも、このやり方のほうが正しいと信じている。というのは、こういう計算ではどうしても近似が入るからである。摩擦や振動は無視するのが普通だし、主要部分以外の動きなどは初めから考えていない。それが問題になりそうなときには、結果の数字に「余裕を見て」20%なり、50%なり、場合によっては200%なりを加えて答えを出すのである。3倍もするのに、なんで5桁や8桁の数字が要るものか。

 問題はしかし、概算もしない設計者がいることである。従来の例から経験で判断するのは許せる。新しい機械を何の根拠もなく当てずっぽうで決めている。これに比べれば計算倒れのほうがよっぽどましである。  私がSCARAロボットのモータの容量を決めたときにはこうして決めた。まず、ツール部分の質量を推定する。これはワークと工具部分を含めて約6kgである。工具点の最大加速度を1g(ジー)、最大速度を1m/sと決めたので、慣性力が6kgf=約60N、これを1m/sで動かすと60Wとなる。これは肩のモータで動かしても、肘のモータで動かしても同じである。両方で動かせば? 1個当たりはこれより小さい。ただ、肩のモータはワーク以外に肘のモータも動かさなければならないから、これより大きくなる。結局、200Wと100Wになった。最近ではロボットが早くなってきて3g、2m/sぐらいになっているから、この数字の6倍の容量ということになる。

--訂正--
 前回のこぼれ話で1955年ごろにLPが誕生したと書いたが、これは誤りでした。1955年ごろに開発されたのはステレオのLPレコードで、モノーラルのレコードはこれよりずっと早く、1948年と言われています。お詫びして訂正します。