自動化こぼれ話(133)ペットボトル
山梨大学名誉教授 牧野 洋
バスの中で高校生と思われる女の子が鞄の中からペットボトルを取り出し、お茶を二口三口飲んだ。そうして無造作に蓋を閉めると、そのまま横にして教科書やノートの間に突っ込んだ。
これを見て私は感心した。彼女の無作法さに感心した訳ではない。ペットボトルの蓋の精度と、その精度にすっかり信頼しきっている彼女の態度に感心したのである。
これがもし、彼女と30歳ほど年の違う(本当はもっと違っているが)私がやるとしたらどうなるだろうか? 私だとペットボトルの蓋を入念に締め、それを用意しておいたビニールの袋に入れ、ゴムバンドでくくり、ボトルを立てて、教科書やノートの入っているポケットとは別のポケットに入れるのではないだろうか?
ここ30年の間に(本当はもっと経っているが)、壜の蓋の精度は著しくよくなった。壜をさかさまにしても水がこぼれることはなくなったのである。何10万個か射出成形された うちの1個のプラスチック製ねじ蓋と、同じく何10万個か射出成形されたうちの1個のペットボトル本体とを組み合わせて、ねじ部の隙間がないことが保証されているのである。その金型の精度はどのくらいであろうか? さかさまにしてもこぼれないことが当り前であるためには、どのくらいの技術の進歩が必要だったのだろうか?
ペットボトル:PET bottleと書きます。PETはポリエチレン・テレフタート(polyethylen terephthalate)の略で、このPETは他のプラスチックよりガスを通しにくいので、炭酸飲料によく用いられます。
てっきりpet:寵愛するもの、愛玩動物、と思っていましたが、違っていました。でも、女子高生にペットボトルというと後者の方が似合いそうです。そして、かわいいボトルと思わせるようなネーミングに脱帽です。(編集子)
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