自動化の新しい概念の一考察

SOMNIUM CREARE 代表
技術コンサルタント
自動化推進協会 理事
種田 幸記

 世界経済は第二次世界大戦以降、未曾有の不況に陥っている。デフレスパイラルをも招きかねない価格の低下、それに対応するために製造現場の東アジア移転が止むことを知らない。日本の高度成長時代には技術先進国の米国に学び、模倣、改善を加えて、まだ低かった賃金を基にして世界市場に進出した。生産性の向上、経済規模の拡大、賃金、生活レベルの向上とともに次第に国際的な競争力を失ってきた。中国を始めとする東南アジア諸国も、日本の歩んできたこの道をたどるに違いない。ただ、中国は多くの人口を抱え、それが政治経済の舵取りによってプラスにもマイナスにも働くことだろう。

 工場の生産は最新鋭の設備の方が押し並べて生産性、品質の点で勝るのは、日本の最新鋭の工場の稼働に伴って数十年前に米国鉄鋼業が衰退したことに見ることができる。現在の日本では残念なことにハードウエアの生産、ソフトウエアの開発ともに大きく停滞している。日本では最近、生産工場に生産「技術者」がいないという現実がある。「技術者」ではなく「仕様書作成者」という悪口も聞かれる。

 こんな状態で、日本の産業の基盤は大丈夫だろうか。つい最近、中国上海周辺の企業数社の状況を視察する機会に恵まれた。そこではあたかも、1960年代の日本人労働者を見る思いがした。そこで、労働による付加価値は何によって作り出されるか、もう一度冷静になって考えてみたい。高度成長時代の日本人は自らの力で懸命になって働き、付加価値をつけていたではないか。ところが、今はどうであろうか、全国民が懸命に知恵と汗を流し、この経済的国難に対峙しているだろうか。  国際競争に勝つには従来を上回る高生産性、高品質、高均質性を自動化技術をベースに実現させていくことが、今までにないほど重要になってきている。そこで、自動化技術の新しい概念という視点で国内のみではなく、海外をも含めた将来の課題を考えてみたい。

 日本の自動化技術は自動化技術先進国として、@国際的な視点で各国の国民性、民族性に合った自動化を計画実践できる技術を開発する。Aものづくりの原点に忠実になり、むだを徹底的に排除して良品率100%を実現する技術を開発する。B資源の有効利用、環境保全を重視した自動解体技術を開発する。

 @は生産活動は人間のためのものという視点に立ち、自動機を含む生産設備、システム、工場はマンマシンシステムとして、働く意欲が沸き立つ人間重視の工場、システム設計、製品設計、自動機方式を開発することであり、利益追求の経営課題と人間本来の生きがいを追求する社会課題の相克を技術が解決せねばならない。開発者は国際的な経営、民族性などへの広い視野が要求される。

 Aはものづくりの原点に立ち返って、労働の価値を100%に高めるために良いものをつくる喜びを共通の社会的価値観とする。そのために企業内の開発者に対する評価を高める風土を作り上げていくことである。技術者の経営的視点からの問題把握能力の向上が要求される。

 Bは資源再利用、環境保全、改善のための商品設計、作りやすい商品設計、資源再利用のための自動化技術開発であり、取り組みは始まっているが社会的評価がまだ低い。

 今後、自動化に携わる技術者に、21世紀の未来像を議論できる場ができることを期待する。