3現主義に基づいて 生産技術30年

三菱電機株式会社生産技術センター長
自動化推進協会常任理事 関西支部長
東 健一

 生産技術分野での仕事が30年を越えた今、本当にこの領域で何等かの貢献が出来たのか?若干の反省を込めて、生産技術のあるべき姿を再度追求してみたい。

 30年間を振り返ると、初めの10年間は、ひたすら、加工・組立工程の自動化を追及してきた。その頃の自動化は、とにかく、現場から人を省く・無くすが中心で、人の作業をそのまま機械に置き換えるのが基本であった。また当時は欧米の技術情報を文献・雑誌から学び取るとともに、時には出張して、自分の目で実態を確認するといった時代であった。

 しかし、人の作業を機械に置き換えるだけでは投資効率の面からも限界があり、安い海外の労働力に対抗できるかという問題に直面した。結果、製品構造を見直し、加工しやすい・組立やすい構造に再設計し、これを自動化するやり方に、方針を変えていったのが次の10年間だと思っている。この活動を生産設計と呼んでおり、部品点数の削減・材料費のミニマム設計・自動化の推進等で、非常に大きな成果を挙げることができた。あわせて、たいへん幅の広い知識・技術が身に付いた(勉強した)時代でもある。製品構造を変えるには、製品設計者とほぼ同じ程度の知識・技術を持ち、お互いに同じ土俵での討議・協調が改善の成否の要になると考えたからである。  ところで、この頃から気になっているのは、設計者の中に『昔からこうなっている』といった言葉を平気で使う人がいる点である。誰が、どんな根拠で決めたのか、また、どんな技術的根拠をもっているのかといったことに、何の疑問を抱かない設計者には、早く原理・原則に基づいた活動の大切さを教えてあげる必要あがる。さらには、若い設計者が、現場に来ないということもよく耳にするが、現場にはあらゆる生産情報がころがっているので、3現主義(現場・現物・現実)に基づいた活動を徹底するべきと考えている。

 最近10年の関心事は、少々大げさではあるが、どうやって日本の製造業を強くしていくかにある。

 穀物自給率20%前後の日本が、100%以上の自給率を誇る欧米先進国と同じような考え方では、先々難問を抱えることになると危惧しているからである。結局、日本は加工貿易でしか生き残れないと考えると、常に、新しい技術開発・製品開発にチャレンジし、特許・ノウハウに守られた新製品を生み続け、かつ、これを高度な技術で自動化していく必要性を痛感している。

 今後、本協会の定例会・報告会等で、事例紹介・討議を通じて微力ながら、強い日本の製造業の継続に貢献していきたいと考えている。