未来の自動化と大学カリキュラム

東京都立科学技術大学工学部機械システム工学科
自動化推進協会理事
本田 智

 私は現在、大学で機構学、機械要素設計の講義を担当し、学生実験では,CAD/CAM/CAEを担当しています。

 研究では精密位置決めステージ、ピンセットロボット、6自由度マイクロ姿勢デバイスの研究などを行っていますが,自動化を教授する大学のカリキュラムを探してみると、講義の名前に「自動化」という文字を見出す講義はなく、また、卒業研究でも直接的に「○○の自動化」と名づけた研究もないように思われます。一見すると、大学では、自動化について教育も研究も行っていないように思われます。しかし、自動化をテーマとする講演会を多数聴講するなかで、自動化の基礎となる講義は十分にあるように思えるのです。それは歯車やカムなど機械の動きを解析する機構学、機械が壊れないための材料力学、機械を動かすための制御工学であり、実際の制御回路を作るための電子回路、制御プログラムの講義であると思うのです。ただ、教員が、講義中にその講義が将来いかなる分野で応用されるか、意識をもって講義しているかはわかりません。また、受講する学生も、将来自分が自動化技術者として製造ラインの設計に携わるなどということはまったく意識せず、単に、履修簿に記載されている機械工学の学問の一つぐらいの意識で、受講しているのではないかと思うのです。

 今までに機械系の学科を卒業した技術者が優秀な自動化技術者になったように、大学の講義でその応用分野を意識しなくても、優秀な自動化技術者は育ち、あまり、横から嘆きの言葉をはさむ必要がないのかもしれません。自動化のため の基礎知識さえあれば、卒業後、自動化のエンジニアとして活躍できるのかもしれません。しかし、機構学を受講する学生に対して第1回目の講義に、押し出し式ボールペンで1回押すとペン先が出てロックされ、再度押すとペン先が引き込む機構はどのようになっているか、自分で機械を観察してその機構を説明しなさいというレポートの中で、何の疑問も感じなかった押し出し式ボールペンに機構の面白さを発見し,感動する学生がいる反面、他人のレポートの丸写しで済ませて,講義には出席せず、不可となってしまい、その理由を聞いたとき、大学の講義が自分の将来の何に役立つのかわからない、だから講義が面白くないという理由を上げる学生も少なからずいることも事実です。学ぶ意識をもって聴講する学生がもっと増えないものでしょうか?

 数年前にアメリカの大学を訪問したとき、学生実験用に小さな生産ラインが設置され、4週間程度で、その製造ラインを構築するという学生実験が行われていました。自動化のキーワードでもある「FMS」を体得する良い実験と思います。セメスタ制(1年を4期で構成する制度:日本では前期、後期の2学期制が一般的)で講義が行われているために実現できる実験項目であるかもしれませんが,講義で学んだ知識を活用し、また、どの知識が足りないか、体得しているようでした。このようなカリキュラムがあれば、意識を持ったスーパー自動化エンジニアの卵が卒業するように思われるのですが、いかがでしょうか?未来の自動化と大学における自動化教育について、皆様に教えていただければ幸いです。