包装機械と設計の今昔

鞄結梛@械製作所
研究所 主席研究員
守田 健佑

 包装機の機械設計を手がけてから、早いものでもう30年以上になります。もっとも、これ一筋という訳ではなく、途中、たばこの巻上機、組立機械等いろいろな機械にたずさわってきましたが、やはり一番長く付合ってきたのが上包み包装機械、いわゆる上包機です。

 さて、最近の上包機械のメカニズムには、かつての輝きが感じられなくなってきたように思うのは、私だけでしょうか? 時代の流れでしょうか? それとも、設計の内容が変ってきたのでしょうか? この機会に最近の包装機械と設計の今昔について、感じている事を書いてみたいと思います。

 主題に入る前に、最近の包装機械の設計を取巻く環境を整理すると、下記のようになると考えられます。
1. CAD・CAMの普及により、既存技術・装置の活用による 短期設計が常識。
2. パーツ・装置・アクチュエータ等の市販品が、比較的ローコストで豊富に出回り、入手が容易。
3. 情報量が多く、その検索が容易に出来るインターネットの普及。
4. サーボモータの高性能化、小型化、ローコスト化と制御技術の飛躍的な向上。
5. 機械の顧客は少量多品種をこなす汎用機を、ローコスト・短納期で求める時代。

 それでは、私が設計を始めた頃の昔の設計環境から話をしたいと思います。

 その頃の機械はメカ中心であり、目的にあった周辺パーツ、装置等の市販品がほとんどない時代でした。アクチュエータとして利用出来るのは汎用モータ、大形のエアシリンダ、直動型ソレノイドバルブ等くらいで、センサー類はマイクロスイッチが主であり、減速機、インデックス等もマッチした市販品がなく、設計製作していました。設計者は必要なタイミングの中で安定動作させるため、速度、加速度、重量、慣性、Gなどを計算し、それ等を満足させた上で与えられたスペースの中に収まるメカニズムを、いかに安価に設計するのに苦慮してきました。カム、リンク、クランク等を組合わせ、必要最適な装置をその都度設計せざるを得ず、その設計していく過程で思わぬ組合わせや曲線に出会い、一喜一憂し、面白い機構が生れてきました。

 この時代は、機械の電気回路も機械設計者が自分で描く事も多く、多少の電気知識も必要で、メカ?電気の両方の長所・短所を考えて設計する事が求められていたように思います。  一方、最近の設計はどうでしょうか。新しい機械の構想に入る時(商売とするために時間とコストの制約が与えられる)、据付けスペースからワークの基本的なフローラインを考えると、次に設計者がする事は、その流れにマッチする周辺パーツ、装置等を、まず自社の既存装置から、次に市販品を探す事から始まります。この検索にはCADのデータベース検索およびインターネットでの検索が絶大な威力を発揮し、短時間で目的の物を探してくれます。また、近年当たり前のようになりつつある顧客からの多品種をこなす汎用機の要求に対して、設計者は、時間的余裕もないため、複雑なメカニズムを考える前にサーボモータを利用したレイアウトを描き、各駆動部に分散したサーボモータを取付け、必要な動きをさせます。

 少し前までは非常に困難とされてきた多軸のサーボモータ同期制御も今では既存技術となり、まるで主軸で連結されたように離れた装置を動かす事が出来るので、面倒な主動力系統構想に時間を取られることもなく機械全体に動力を配置する事が出来ます。この設計の流れは、いわば組合わせ設計技術とも言えるもので、この設計パターンは電気のハード設計に非常に近付いてきているように思われます。

 初期トラブルを反映したこのような既存装置は、品質が安定しており、これを利用するのは設計時間の短縮と設計ミスからくるリスク回避に大きなメリットを生み、これ等を活用することは、利益を求めるメーカーとして当然の選択であります。こうして、かつて時間をかけて設計し構築していった自社メカニズムが、既存装置に次第に置換わってきています。

 このような背景もあり、基本的なフローラインがほぼ似ている上包機において、各メーカーの機械は外観等に多少の違いがありますが、似たような機械が出来上がってしまい、私の目からは、かつての魅力的な輝きが感じられなくなってきたように思われてなりません。もちろん、昔は良かった式の懐古趣味で言うのでもなく、最新の設計環境・ツールを否定するものでもありません。

 現在では、最初から組合わせ設計技術しか教わらなかった設計者の世代が育ちつつあるような気がします。では、このままで良いのでしょうか? 専門メーカーの独自性を持ったメカニズムが輝く機械とは何でしょうか? 皆で考えていかねばならないテーマだと思います。